同一労働同一賃金と配偶者控除の問題点

著者:【谷野会計事務所】谷野 芳枝

※こちらの情報は2020年11月時点のものです

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という事態に直面し、「働き方改革」が国の重大政策となっていますが、その中で重要なテーマの一つとなっているのが「同一労働同一賃金」の原則です。この原則を盛り込んだ関係法令の適用が、大企業については2020年4月からすでに始まっており、中小企業については一年遅れの2021年4月からとなっています。主旨をごく簡単に言えば、正社員と非正規雇用の社員の間で不合理な差別的待遇を禁止するということです。
同一労働同一賃金は、このように非正規雇用の処遇改善を図るのが目的ですが、この目的とは裏腹に、女性の非正規社員の中には、賃金が上がることにより、配偶者控除が受けられなくなるからと、勤務時間を減らすことを考える人も出てくるのではないでしょうか?そのため雇用主の中には、人手不足の中、新たな働き手を探さなければならなくなるのではと危惧する人も出てきています。この所得税の配偶者控除制度については、女性が本格的に社会進出して就労する機会を妨げているのではないかということが、以前より論じられてきたのですが、さらに拍車がかかる心配すら出てきました。
そこで、次に所得税の配偶者控除制度について考えてみたいと思います。

1.現行の配偶者控除制度(令和2年度改正)

配偶者(妻)の給与年収が103万円以下であれば、配偶者には所得税がかかりません。その仕組みは、103万円の給与収入に対して、55万円の給与所得控除があるため、合計所得金額は48万円となり、誰でも合計所得より控除できる基礎控除額48万円を差し引くと、課税所得金額が0円となる結果、税金がかからないというわけです。さらに世帯主(夫)の収入からは、38万円の配偶者控除が受けられます。そのため、パートなどの収入を103万円以下に抑えようとする人が多く、結果的に就業時間の調整をしないと損であるという考えが浸透しています。ただし、平成30年分以降は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える年については、配偶者控除は受けられなくなりました。また、配偶者の所得が103万円を超える場合でも、年収150万円までなら、配偶者控除は受けられませんが、年収額によって段階的に配偶者特別控除が受けられることになっています。

2.配偶者控除の対象となる人

その年の12月31日の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。

  • 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。
  • 納税者と生計を一にしていること。
  • 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
  • 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、又は白色申告者の事業専従者でないこと。

3.会社の給与規程などの取り扱い

給与規程によって配偶者手当が支給される会社は珍しくありませんが、その場合に配偶者手当の支給基準を、配偶者控除が認められる限度額の年収103万円に連動させている企業も多く、その結果として税額だけでなく、給与の額まで違ってくることになります。

このように、配偶者控除制度は、女性が社会で本格的に働きたいとの意欲を持つことを阻害する大きな要因になっているのが実情です。そのような制度が、未だに廃止を見送られているのは、妻が家庭を守っていくべきだという古い考えが根強く残っているからなのでしょうか?それとも女性自ら反対していることが多いのでしょうか?
女性の就業拡大を阻んでいるのは配偶者控除だけではありません。年金・健康保険など社会保険料の支払いを免れ、国民年金も「第3号被保険者」となる「130万円の壁」も問題として残っています。

節税を考えるのはとても大切なことですが、人生100年時代ですので、長期的な目線で、女性の働き方を考え、税金が発生しても、女性がその持てる能力を十分に発揮し、やりがいのある仕事を選択するという考え方が、これからは是非とも必要なのではないでしょうか。せっかく、同一労働同一賃金の原則が、我が国に根付こうとしている時代なのですから。