名義預金に注意~相続税の税務調査対策 その1~
※こちらの情報は2023年1月時点のものです
平成27年度から相続税の基礎控除額が引き下げられたため、相続件数に占める課税件数の割合が大きくなり、2020年は8.8%となっています。つまり相続件数の1割近くに相続税の申告義務があったわけで、その際に納付した相続税の平均額も1,737万円に及びました。
相続税の節税対策は生前に行わないと効果はありません。そのための有効な手段として110万円の暦年贈与という方法がありましたが、近年これを廃止すべきという提案がなされています。今後具体的にどのような税制改正が行われていくかはまだ分かりませんが、増税の方向に進んでいくことはほぼ間違いないと思われます。
今から対策を講じるためには相続税の仕組みを理解しておくことが必要ですが、間違った対策は、過少申告加算税や延滞税などが課されるため逆効果になりますので注意しなければなりません。今回は税務調査で一番多く指摘のある名義預金について事例をあげて解説していきます。
質問1
夫が亡くなり悲しみに沈んでいたA子さんでしたが、ある日名義預金に相続税が課税されたとの新聞記事を読みました。A子さんは専業主婦で毎月夫の口座から40万円を自分の口座に移し生活費として使っていました。節約家であったA子さんは毎月10万円をA子さんの名義で積立て、株や投資信託などで運用していました。かれこれ30年間投資を行い、夫が亡くなった時には約4,000万円の残額でした。この4,000万円は名義預金として相続税が課税され申告が必要になるのでしょうか?他の財産は自宅マンション(相続税評価額3,000万円)と夫の預貯金1,000万円です。子どもはいません。
回答
節約しなければ残らなかった財産でありA子さんの努力によるものですが、専業主婦であったA子さんの場合、本人に収入はなく、夫も配偶者控除などを受けていたと思われます。そうすると、夫とA子さんの間で明確な贈与契約が締結されていない限り、名義がA子さんであっても夫から相続した財産として課税されることになると考えられます。
課税される財産の合計額は基礎控除額※1を控除後の4,400万円※2となり、これに対して相続税が課税されますので申告が必要です。ただし、夫が死亡してから10か月以内に相続税の申告書を提出し、配偶者の税額軽減の適用を受ければ、税額は0円※3になります。
アドバイス
亡くなった人の名義ではなくても、常にその財産の原資はどこからだったかということを考えましょう。もし暦年贈与の制度(夫から妻に毎年110万円以下の範囲で贈与)を利用していたら妻の財産となっていました。
質問2
亡くなった夫は、子や孫の名義を借用して預金をしていました。通帳やカードも夫が持っていました。老後にいくら必要になるか分からないため必要な時は自分で使い、亡くなった時には子や孫に渡すつもりでいました。この場合は相続税の申告の時に夫の財産として申告の必要があるのでしょうか?
回答
子・孫名義の預金の判断ポイントは、贈与契約が成立していたかどうかです。
贈与が成立していれば名義預金には含めなくて良いが、贈与が不成立なら名義預金として相続財産に含めることになります。このケースでは、通帳やカードも夫が管理しており、必要な時には自分で使うつもりだったということですので、生前贈与は認められず、相続財産に含まれると考えられます。
アドバイス
贈与契約は双方合意の上に成り立つものですので次の点に注意しましょう。
- 契約書など贈与契約の存在を示す外形的事実があるか
- 子や孫はその口座の存在を知っていて自由に引き出すことができていたか
- 通帳、キャッシュカード、印鑑などを名義人である子や孫自身が管理していたか
税務署は相続税の税務調査を行うにあたり、被相続人名義の財産を調べるのは当然として、必要に応じてその親族名義の財産も調査します。家族名義や親族名義の預金に移し変えていても隠すことは出来ません。また、被相続人の生前の収入等も調査し把握しますので、このくらいの収入があれば、被相続人の財産もこのくらいはあるだろうということを推定します。それに明らかに満たない金額を相続税申告書で提出されれば、親族名義の口座に移っていないかと調査します。もし被相続人が多額の買い物をしたといった事情がある場合などには、通帳にメモを残しておいて、何に使ったかなども説明できるようにしておくことが大切です。
※1 基礎控除額 3,000万円+相続人1人600万円=3,600万円
※2 マンション3,000万円+預貯金1,000万円+名義預金4,000万円-基礎控除額3,600万円=課税財産4,400万円
※3 4,400万円×20%-200万円=680万円<配偶者の税額軽減16,000万円 ∴相続税額0円