音楽教室とJASRAC 最高裁の判決について
※こちらの情報は2023年2月時点のものです
食品、燃料など生活必需品の物価の上昇が続き、日本中で悲鳴が上がっています。一方で、賃金が上昇しないことがこの国の問題をさらに深刻にしています。内閣支持率はどんどん下がる一方です。この状況を脱却するために、政府がどのような対応を取るのか、注目されます。さて、今回は、音楽教室とJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)との裁判に関するトピックの第3弾です。これまで音楽教室とJASRACとの争いについて2回に亘って、判決内容などを紹介しました。今回、最高裁の判決が出たため、この争いに一応の決着が付きました。
これまでの経緯
《東京地裁判決》
一審東京地裁は、教師および生徒のいずれの演奏についても著作者の演奏権が及ぶとの判断を示しました。音楽教室側は、判決を不服として、知的財産高等裁判所(知財高裁)に控訴しました。
《知財高裁判決》
知財高裁は、東京地裁の判決を一部変更し、生徒の演奏については徴収権を認めないとする判断を示しました。教師の演奏については、生徒に聞かせる目的が明らかとして、一審と同様、控訴審判決においてもJASRACの徴収権が認められました。生徒の演奏は自らの演奏技術向上のためで、演奏主体は生徒であるとして、公衆に聞かせる目的とは言えず、演奏権侵害はないと判断されました。
最高裁判決
2022年10月24日、最高裁は、生徒の演奏に対しては著作権を徴収できないとする知財高裁の判断を支持し、JASRAC側の上告を棄却しました。裁判長は、判決の理由として、「音楽教室での生徒の演奏は、技術を向上させることが目的で、課題曲の演奏はそのための手段にすぎず、教師の指示や指導も目的を達成できるよう助けているだけだ」と述べました。その上で、生徒の演奏はあくまでも自主的なものであると判断されました。これにより、音楽教室においては、教師の演奏に対しては著作権の支払いが必要であり、生徒の演奏に対しては著作権の支払いは必要ないとする判断が確定しました。
今後の音楽教室でのレッスン
今後は、音楽教室は、先生の演奏に関して著作権料を支払うことになります。先日、ある報道番組では、音楽教室の先生が、著作権料を支払う必要のある曲を使用するか否かでレッスン料を変更することも考えると話していました。例えば、クラシックの曲など著作権が切れている曲であれば著作権料の支払いの必要はありません。そういう曲を練習曲として選択する生徒と、最近のポップスなどを選択する生徒とではレッスン料が変わることになります。しかし、一方で、子供にピアノ演奏を好きになってもらうためには、クラシックの曲よりも最近の流行りの曲を練習する方が効果的だという意見もあります。音楽教室は色々と頭を悩ませそうです。先生が演奏しなければ著作権料は不要であり問題ないのでは、という意見もあります。しかし、先生が生徒に教えるにあたって、口頭だけの指導で、全くお手本を見せないというのも現実的ではありません。楽曲を生み出す著作者の権利を守ろうとする考え方と、子供の音楽的才能を伸ばそうとする考え方の両方が上手く実現できればいいのですが、今回の判決は、あまりいい着地とは思えない気がします。