開放特許について

著者:【弁理士】坂根 剛

※こちらの情報は2017年11月時点のものです

 先日、今年のノーベル賞の発表が行われました。日本人は科学分野で過去3年間連続してノーベル賞を受賞していましたが、今年は残念ながら受賞を逃しました。科学分野ではこのように毎年ノーベル賞の受賞が期待され、話題を集めています。
しかし、近年、日本の研究論文数が減少していることを懸念する声があります。米国や中国などの論文数が増加しているのに対して、日本の論文数が伸び悩んでいるのです。大学の研究者の研究時間が減少していること、大学の研究予算が削減されているなどの要因があるようです。大学の研究レベルが低下すれば、日本の企業の技術レベルにも影響を与えることは必至です。この現状を打開するための施策が期待されます。

さて、今回のテーマは“開放特許”です。

開放特許とは

 特許権とは、特許権者が独占的に特許発明を実施することができる権利です。権原なき第三者が特許発明を実施すると権利侵害となります。開放特許とは、特許権者が他者に特許権の実施許諾をすることや、権利譲渡することを希望し、一般に開放している特許のことを示します。

 開放といっても、第三者が自由に(無償で)利用できる特許という意味ではありません。開放特許を利用するためには、利用者は特許権者と契約する必要があります。開放特許の利用者は、特許権の実施許諾を受ける場合にはライセンス料を、特許権の譲渡を受ける場合には、譲渡料を支払う必要があります。

なぜ特許を開放するのか?

 特許権者が特許権を最も有効に利用できるのは、特許権者自身が特許権を使用し、製品を製造し、製品を販売することでしょう。しかし特許権者がそのような体制、資金を持ち合わせていない場合があります。たとえば中小企業であって、特許権を使用した製品を製造するための設備投資などが困難な場合があります。
あるいは、大学が特許権者であれば、そもそも製造、販売といったプロセスを予定していません。このようなケースでは、特許権者は自身で特許権を独占していても利益がなく、特許権を第三者に使用させることで利益を生むことができます。また、大企業であっても所有している多数の特許権の中で使用していない特許権があれば、第三者に開放することで特許権を有効に利用することができるのです。

開放特許情報データベース

 INPIT(工業所有権情報・研修館)は、インターネットにおいて、開放特許情報データベースを公開しています。そのサイトを参照することで、企業、大学、研究機関等が提供している開放特許を検索することができます。開放特許情報データベースの利用は無料であり、登録することなく誰でも自由に参照することができます。

開放特許の利用方法

 たとえば、ある製品の開発をするときに、技術的な課題が発生したとします。もし、開放特許を利用することでこの課題を克服できるのであれば、開放特許を利用するメリットがあります。もちろんライセンス料などは必要ですが、多額の開発投資を削減できる可能性があります。あるいは、開放特許を利用することで、自社製品に付加価値をつけることができるといったケースもあります。

 日本の産業の発展、国際競争力の強化のためにも、日本で取得された特許が有効に活用されるのは歓迎すべきですね。