商標出願に関する商品の「類似群コード」について
著者:【弁理士】大上 寛
※こちらの情報は2021年5月時点のものです
早いもので2021年も5月に入りましたが、一年前の5月には一回目の緊急事態宣言が発令されておりました。この一年で様々な変化がありました。半ば強制的に新しい行動様式、生活様式への移行が行われたこともあると思います。いい面も悪い面も上手くバランスをとって柔軟に対応することが必要ですね。
さて、今回は商標出願に関する商品の「類似群コード」についてのお話です。初めて聞かれる方も多いと思いますが、代理人である弁理士や特許庁では、主に「類似群コード」を利用して指定する商品の検討や、審査を行っています。
1.「類似群コード」とは?
商標権の権利範囲は、商標(マーク)と指定商品・役務によって決められます。
指定商品や役務(サービス)は、出願の際に自由に選択することができますので、多種多様です。例えば、商品であれば、パソコン、おもちゃ、時計、靴、被服、テレビ、ゴルフクラブ、合成樹脂、ビール、まぐろ、アイスクリーム…などなど、きりがありません。同様に、役務(サービス)であれば、学習塾、引越し業、レストラン、清掃業、インターネットプロバイダ…などなど、たくさんあります。
特許庁では、これらの無数の商品や役務(サービス)について、共通性を有するものをグルーピングし、同じグループに属する商品群又は役務群は、原則として、類似する商品又は役務であると推定することとしています。
そして、このグループについて、「類似群コード」という番号が付与されることとしています。例えば、「スーツ,ズボン,Tシャツ」の商品は、共通性を有する商品群として、17A01という類似群コードが審査基準に定められています。
2.商標登録の願書には「類似群コード」は書かない
商標登録出願の際には、出願人は願書に具体的な指定商品を記載しなければなりません。例えば、「スーツ,ズボン,Tシャツ」といったように、商品を明確に記載します。
ここで、被服についての「類似群コード」は17A01ですが、出願の願書には、この類似群コードを記載する必要はありません。特許庁側では、17A01に対応する商品が指定されたものとして審査を進めます。
3.出願人側での「類似群コード」の分析
例えば、Tシャツについて「◎×◎」という商標を考え、出願を検討することになりました。この際、実際に出願をする前には事前に調査をすることが有効です。先に「◎×◎」の登録が存在する場合には、出願をしても拒絶されてしまうからです。
この調査は、J-PlatPatでオンラインで行うことができますが、この際に類似群コードを指定して調査をする必要があります。今回、Tシャツについて商標「◎×◎」の権利が存在するかを確認するので、Tシャツについての「類似群コード」17A01を検索画面に入力する必要があります。
4.類似群コードはどうやって調べる?
J-PlatPatでは、商品に対応する類似群コードを検索できるようになっています。検索画面においてTシャツと入力すれば、それに対応する類似群コード17A01を見つけることができます。
5.類似群コードの範囲
類似群コード17A01が分かった上で商標「◎×◎」を検索すると、なんと完全に同一の商標の登録が確認されました。先に権利を取られてしまっていたのです。
ただ、よく見ると、その商標「◎×◎」は、「ズボン」についてのみの権利のようです。「ズボン」の類似群コードも17A01ですので、検索にヒットしたのです。
同一の商標「◎×◎」について、同一の類似群コードが付与された登録が存在するため、後から出願しても拒絶されてしまいます。
このように、類似群コードは、いわゆるカテゴリーの範囲を決めるものであり、類似群コードが共通すれば、実際の指定商品が違う場合でも抵触することになります。
6.商標を保護することができる
上記の例であれば、商標「◎×◎」について「ズボン」の権利を持っていれば、第三者が後から「Tシャツ」について出願をした場合に、この出願を排除することができます。
また、第三者が無断で商標「◎×◎」を付した「Tシャツ」を販売した場合に、類似群コードが共通するため、この「Tシャツ」の販売差止などの商標権侵害を訴えることが可能となります。
7.実際に意識することはない?
弁理士に商標の出願を依頼する場合には、「Tシャツについて商標とりたい!」と相談すれば、弁理士が類似群コードを分析し、適切に対応してもらえることでしょう。
したがって、依頼者が類似群コードを意識することはあまりないかもしれません。今回は少し専門的になりましたが、「類似群コード」を踏まえることでより緻密な相談や検討ができると思いますので、ぜひ知っておいていただきたいです。