音楽教室・JASRAC著作権に関する論争 2
著者:【弁理士】坂根 剛
※こちらの情報は2021年6月時点のものです
ちょうど一年前、音楽教室とJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)との間での著作権に関する論争を取り上げました。JASRACが、音楽教室で演奏される楽曲に対しても著作権料を徴収する方針を取ったことに対して、音楽教室が、JASRACに著作権徴収権限がないことの確認を求めた訴訟を起こしたという事案でした。一審の東京地裁は、音楽教室の訴えを棄却しました。そして、今回、その控訴審判決が言い渡されたため、続編をお送りします。
音楽教室での演奏
著作権法第22条には、演奏権について次のように規定されています。
(上演権及び演奏権)
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
つまり、著作権者の許諾を得ないで、「公衆」に対して「聞かせることを目的として」楽曲の演奏を行うと、演奏権に抵触することとなります。「公衆」の用語は、著作権法上は、「不特定の人」または「特定多数の人」を意味します。音楽教室での楽曲の演奏が、著作者の演奏権に抵触するかどうかが争われています。
東京地裁判決
2020年2月の東京地裁の判決では、音楽教室内での演奏の主体は音楽教室運営会社であり、生徒は不特定多数であるため、音楽教室内での演奏は「公衆」に対するものであると判断されました。つまり、一審東京地裁は、教師および生徒のいずれの演奏についても著作者の演奏権が及ぶとの判断を示しました。音楽教室側は、判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴しました。
知的財産高等裁判所(知財高裁)判決
2021年3月18日、知財高裁において控訴審判決が言い渡されました。知財高裁は、東京地裁の判決を一部変更し、生徒の演奏については徴収権を認めないとする判断を示しました。教師の演奏については、生徒に聞かせる目的が明らかとして、一審と同様、控訴審判決においてもJASRACの徴収権が認められました。一審では、生徒の演奏についても音楽教室の管理が及ぶという理由からJASRACの徴収権が認められていましたが、控訴審判決では、生徒の演奏は自らの演奏技術向上のためで、演奏主体は生徒であるとして、公衆に聞かせる目的とは言えず、演奏権侵害はないと判断されました。
まとめ
一審では音楽教室の全面敗訴という判決でしたが、知財高裁では、生徒の演奏に対する徴収権が認められないという判決となり、音楽教室の主張が一部認められたことになります。JASRACは、今回の判決に不服のコメントを示しています。したがって、JASRACが上告をする可能性もあり、まだしばらくこの論争は続くものと思われます。