商標権の買取について

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2021年9月時点のものです

まだまだ暑い日が続きますが、体調管理に気をつけてがんばりましょう!
さて、今日は『買取』についてのお話をさせていただきます。『ブランド品買取』『中古車買取』『金(GOLD)買取』をイメージされた方もいらっしゃるかもしれません。不景気になると買取が活発になるというウワサ?があるようです。とにかく現金化が急務となりますので、顧客と買取業者の値段交渉も激しさを増します。高級ブランドバッグをマダムが持ち込んで業者と一悶着というテレビもよく見た記憶があります…。
前置きが長くなりましてすみません(笑)。今日は全く別のお話で、『商標権の買取』でございます。先日、この商標権の買取の相談がありましたので、事例として紹介をさせていただきます

1.事例

外国企業が日本企業に『商標を譲ってほしい』という交渉の事例です。実際には、中国の企業が、日本の社員10数名規模の中小企業に打診をしたものでした。わたくし(弁理士 大上)にその仲介(譲渡手続きの代理)をしてほしいとのことで相談がありました。秘密保持の観点から、一部内容を変更して記載をいたしますが、譲渡金額は200万円前後で、すでに金額交渉は終わっている段階でした。どのような交渉がなされたかは不明ですが、数百万単位のまとまった金額です。案件によっては、より高くなったり、より低くなったりしますが、ケースによって異なります。
商標権を含め、知的財産権の評価は難しいところがあります。いわゆる一品物という考えもありますので、定価や相場というものがありません。駆け引きで決まるものと言えます。

2.買取(譲渡)が発生するタイミングとは?

商標権は先に商標出願をした人(会社)に付与されます。後から出願した人(会社)は、出願した商標が、先に登録された商標と同一・類似の場合には、先に登録された商標権によって拒絶されてしまいます。どうしても出願した商標を登録したい場合、後から出願した人(会社)は、先に登録された商標権者に対し、商標権を譲ってほしいという依頼をします。商標権を譲り受けることにより、拒絶が解消できるからです。

3.譲るか譲らないか…

『商標権を譲ってください!』という連絡が商標権者に突然はいります。しかも外国企業から…。急に言われても困っちゃうんだけど!ということにもなるでしょう。
その商標権を使用している場合には問題はないのですが、使用していない、つまりは、商標を使っていない場合には、不使用取消審判を請求されて商標権が取り消されてしまうリスクもあります
『譲ってくれないと、取り消しちゃうぞ!』なんて、脅し文句もあるかもしれません…。
駆け引きが始まります。

4.使ってないし譲ろうか…

『使っていないので譲ります!』というのはもったいないです(笑)。
仮に使っていなくても『アアッ!!、ちょうど明日から使うんですよ!』というのがお利口ですね(笑
タダというわけにもいきませんので、金額交渉をします。交渉事ですので駆け引きが難しいですが、納得の金額で譲るのがよいです。
少なくとも、商標権を取得するために必要であった費用(例えば20万円前後)は回収すべきではあります。加えて、その商標の試用期間や、売上規模なども考慮して、算定することがよいでしょう。その商標を使い続けることで得られる利益を基準に算定してもよいでしょう

5.win‐winの関係

商標権を譲り受けた会社は、自社の出願の拒絶が解消されることで、無事、自社の商標権を取得することができました。
一方、譲った会社は、200万円前後のキャッシュが入ることになりました。仮に、もともと使用の予定がなかった商標であったのであれば、納得のいく価格であると思います。

6.最後に

いかがでしたでしょうか?
貴社にも使っていない登録商標があると思います。ある日突然、譲ってほしいという連絡が入るかもしれません。
そのようなときには、焦ることなく冷静に、また、欲を出しすぎずに(笑)、賢く対応しましょう。