部分意匠制度について
※こちらの情報は2022年1月時点のものです
新年明けましておめでとうございます。弁理士の大上です。本年も特許や商標についての話題を提供させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
振り返りますと、一昨年に続き、2021年も新型コロナウイルスの影響を大きく受けた1年でした。夏頃からワクチン接種が普及し10月には緊急事態宣言解除ということになりました。いよいよ2022年がスタートしますが、今年は海外渡航の制限が本格的に解除され、感染対策をとった上で、自由な渡航ができるようになることを期待いたします。
さて、今回は部分意匠制度についてご紹介いたします。2021年に中国の専利法(特許法)の改正があり、中国においても部分意匠制度がスタートしました。日本では従来よりある制度ですが、是非活用していただきたいと思います。
1.部分意匠とは?
部分意匠とは、「物品の一部分の形態」について意匠登録を受けるためのものです。
例えば、自動車のヘッドライトの部分について部分意匠登録を得ることができます。手続きとしては、自動車の全体の形状の部分は点線、ヘッドライト部分については実線で表示した図面を用意して出願をします。これにより、ヘッドライト部分を真似した自動車の模倣を防ぐことができます。仮に、部分意匠で登録しない場合には、自動車の形状全体を基準に類似判断がされるため、ヘッドライト部分が同じであっても他の部分が違うことで、非類似となってしまうこともあります(侵害とならない)。
このように、特徴的な部分のデザインについてだけ部分意匠として登録することで、保護の範囲を広げることができます。
(なお、上記の例は、説明の便宜のため、各種要件を省略しております。)
2.こんな事もあった
昨今では流石にないとは思いますが、海外では、例えば、フロントがベンツそっくりで、リアがBMWそっくりな自動車が存在する?という噂もありました…。
従来よりある一般的な意匠登録では、このような行為に対して侵害を主張することが難しい場合があります。
3.商品パッケージの例
また、年次改良で、一部分のみを変更するという場合もよくありますので、このような場合には、部分意匠が有効となります。例えば、医薬品の箱パッケージや、飲料容器のデザインなども部分意匠を活用することができます。このような包装容器関係では、需要者は記載されている文字や説明文を見ることなく、全体の印象で手にとってしまうことも多いでしょう。例えば、「黄色い箱に入った風邪薬」がある場合に、文字部分を除いた枠部分のデザインのみを部分意匠として登録することができます。このようにすることで、全体のイメージを意匠権として保護することができ、商品名(文字)だけを替えて箱のイメージを模倣しようとする行為を防ぐことができます。
このような例では、包装容器がブランドイメージを確立しているとも言えます。立体商標として保護することも考えられますが、意匠権と商標権の両方を取得しておくことがより好ましいと考えます。
4.中国対応
世界各国同様ですが、特に中国での知的財産権の保護の重要性はますます高まっております。発明特許の侵害については、権利範囲の解釈もあり、権利侵害を訴えることは比較的難易度が高いといえます。一方で意匠については、外観の類似、非類似で判断がされますので、比較的対応要否の判断がしやすいものとも言えます。中国駐在員から、「自社製品の模倣品が流通するのを見過ごすしかなく、ウチの会社の知的財産対応は何をしているんだ!」などという悲痛な声が届いたという会社もあるようです。
中国では実質無審査で意匠登録がされるということもあり、意匠登録の手続きそのものについてのハードルは低いです。権利行使をする際に評価書を取得する必要がございますが、裁判で争う際には評価書が必要となる場合もありますので、意匠登録をしていることが前提となります。したがって、模倣品対策として必要な手続きとも言えるでしょう。
5.最後に
意匠権の取得は、顧客保護の観点からも重要です。外観がそっくりであるため、大切なお客様が誤って粗悪な模倣品を購入してしまう場合もあるからです。
なにかピンとくることがありましたら、2022年の新たな取り組みとして、意匠権保護の活動をされてもよろしいものと存じます。意匠のことは、専門家である弁理士にご相談ください。