AI(人工知能)と著作権について

著者:【弁理士】坂根 剛

※こちらの情報は2022年6月時点のものです

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中に衝撃を与えました。大国による戦争が現実に起きたことが未だに信じられない気持ちです。日本にできることはロシアに対する経済制裁など限定的ですが、ウクライナで起きている悲劇を何としても終わらせるために、政府には考え得る最大限の措置を取ってもらいたいところです。
さて、今回は、AI(人工知能)と著作権がテーマです。AIと著作権という一見関係の薄い両者の間にいったいどんな問題が起きているのでしょう。

AI

AI(artificial intelligence)とは、人間の行動、実験結果など様々な事象を学習したコンピュータが、様々な推論、判断を行う技術です。AI将棋がしばしば話題になりました。AI将棋は、多数のプロ棋士の棋譜をコンピュータに学習させることで構築されます。プロ棋士であっても、AI将棋に勝つことは難しくなっています。そんなAIですが、最近では様々な絵画を描けることでも知られています。コンピュータに有名な画家の絵画を学習させることで、AIは、まるでその画家が描いたような新しい絵画を作成可能となるのです。例えばレンブラントの絵画を学習させたAI画家を構築することにより、レンブラント風の絵画を描画可能となるのです。急速なスピードで進化するAIをもってすれば、著名な画家が描いたような絵画、著名な作曲家が作ったような楽曲などが簡単に作成されてしまうのです。少し怖い気がします。

AIが描いた絵画の著作権

AIが描いた絵画が高額で取引される例もあります。我々には画家の描いた絵画もAIの描いた絵画も区別がつきません。AIであれば、好みの条件、設定を与えることで、その条件、設定に応じた新しい絵画も簡単に作成するでしょう。10年後の絵画市場がどうなっているのか興味深いものです。そんな中、AIが描いた絵画の著作権が争われる事件が起きました。AI研究者のSteven Thaler氏は、自身が開発したアルゴリズム「Creativity Machine」が作成した絵画「A Recent Entrance to Paradise」の著作権を米国著作権局に申請しました。これに対して、著作権局は、2022年2月14日、この著作権申請を却下しました。著作権局は、AIが作成した絵画は、著作権の主張に必要な人間の著作者がいないとして、この絵画の登録を拒絶しました。

まとめ

このようにAIが作成した絵画は、人間により作成された絵画ではないという点で著作権が認められませんでした。同じように人間でないことが焦点となった事例として、サルが撮影した写真の著作権が争われたことがありました。この事案でも、著作権登録には人間の著作者が必要であるとして、著作権が認められませんでした。AIの作成した絵画の著作権が問題となったり、猿が撮影した写真の著作権が問題となったりと、色々な法律の根底を見直さなければならない時期なのかもしれません。