相続法の改正 その1

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2019年2月時点のものです

 平成30年7月6日、相続に関係する民法等が改正されました。

 高齢化社会の進展や家族観の変化に伴い、生存配偶者の保護の必要性が求められ、また、これまで実務上問題とされてきた点の解決方法が求められていた点などの改正がなされました。

 今回を皮切りに、これら相続法の改正点を御説明していきます。

まず、改正点を項目別にあげますと、

  1. 配偶者居住権制度及び配偶者短期居住権制度
  2. 居住用不動産の贈与や遺贈についての持戻し免除の意思表示の推定
  3. 自筆証書遺言について自書によらない目録の利用を認めたこと
  4. 自筆証書遺言の保管制度
  5. 預貯金債権について、一定の範囲内で預貯金債権の単独行使を認め、預貯金債権の仮分割仮処分の要件を緩和したこと
  6. 相続させる旨の遺言による権利承継を対抗問題としたこと
  7. 相続開始後に処分された遺産について遺産分割の対象とする道を開いたこと
  8. 遺留分減殺請求権を遺留分侵害額請求権として金銭債権化し、また、遺留分額算定の基礎となる財産の範囲を変更したこと
  9. 相続人以外の親族が被相続人の療養看護等に尽くした場合における特別寄与制度を創設したこと

です。
今回は、配偶者保護を目的とする1について説明いたします。

配偶者居住権制度及び配偶者短期居住権制度
①配偶者居住権制度

 配偶者居住権は、相続開始の時、被相続人が住む建物に居住していた生存配偶者に、原則として終身、その住居に無償で生活できる権利を確保する制度です。この権利は、一定の要件の下に、遺産分割での合意、被相続人の遺言及び死因贈与契約、家庭裁判所の審判によって取得されます。

 従前は、配偶者が住居での生活を確保するには、配偶者がその建物の所有権を取得するか、その建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結する必要がありました。

 しかし、一般に建物の評価は高額ですから、他の遺産についての取得が困難となり、その後の生活に支障をきたすことになります。また、賃貸借には他の相続人との間で契約の締結が必要ですが、そのような契約が締結できる保証もありません。さらに、仮に契約ができたとしても、賃料を払い続けるという負担が続きます。

 そこで、今回の改正は、このような生存配偶者の立場を考慮して新たに設定されたものなのです。

 生存配偶者は多くの場合高齢者であり、これまでの住居に住み続けたいというのが通例でしょう。配偶者居住権が設定されることで、例えば建物の所有権は子に相続させ、配偶者には配偶者居住権を取得させることで配偶者の居住の安定をはかりながら、他方で配偶者居住権は所有権に比べて低額と評価されることから、生存配偶者は住居以外の財産もある程度確保ができるようになります。

 この配偶者居住権については、その設定登記ができるものとされ、この登記をもって対抗要件とされました。

②配偶者短期居住権制度

 ①の配偶者居住権は、その対象である建物につき被相続人が単独で所有しているか、配偶者とのみ共有している場合で、かつ、遺産分割協議、被相続人からの遺贈、家庭裁判所の審判によって取得されます。

 そこで、これら手続を要すことなく、相続開始と同時に当然に発生する権利として、今回、配偶者短期居住権制度が設けられました。これは、被相続人が所有する建物に配偶者が無償で居住している状態で、被相続人が死亡した場合に、遺産分割成立時まで等の期間中(最低でも6カ月間)、配偶者が従前の居住を無償で続けられるという制度です。

 配偶者短期居住制度が設けられた理由は、特に、急な引越しが困難と思われる高齢配偶者を念頭に、配偶者の当面の居住状態を保護するためです。