メールのCCに上司を入れる指示の不履行について

著者:【弁護士】高下 謹壱

※こちらの情報は2018年5月時点のものです

 今回は、実際の裁判例からのケースで、業務上のメール送信方法に関する法律問題です。

どんな事実か

 20名程度の規模のコンピューター会社で、業務に関連する電子メールについて、某社員は、CCにある上司のメールアドレスを入れて送信していたが、ある時期からこれを入れないようになり、上司からの要請に対しても従わなかったので、社長からもメールのCCに上司のアドレスを入れるようにと指示をされたが、社員はこれを改めず、社長から明確に同じ指示を受けたにもかかわらず、結局、従わないままであったので、会社は、業務遂行に不利益が生じたこと、指示違反を理由に解雇したところ、同社員から解雇無効の訴訟を提起されたというものです。

会社の主な主張

 会社の主張は以下のとおりでした。

  1. 会社では、社員が業務に関連するメールを送信する際は、必ずCCに社長及び所属部門の上司のアドレスを入れることとされており、ある上司が入社した後も、社長は必ず同上司のアドレスを入れるように指示していた。
  2. ところが、ある時期から、同社員は同上司のアドレスを意図的に入れずに送信することがしばしばあり、社長は社員に口答で注意指導した。
  3. しかし、社員は依然として、上司のアドレスを入れずに送信することを繰り返し、社長から指導や命令をされても改めなかった。社員は、社長の指示に対し、同上司の指示を聞くつもりはないと述べた。
  4. 社員がメール送信に関する指示に従わなかったことにより会社では業務の遅滞等の悪影響が生じた。
  5. 社員は、社長からのたび重なる注意、指導に従わず、また、従わない旨を明言しており、改善の見込みがなかったことから、退職を勧奨したうえで解雇した。

社員の主な主張

  1. 会社では、業務上のメールを送信する際に必ず上司のメールアドレスを入れる決まりはなかった。
  2. 上司は、会社の社内システムで社員が送信するメールを閲読することができた。
  3. 上司のアドレスを入れずに送信したアドレスは雑務に係るもので、特に重要なものではなかった。
  4. 社員と上司の担当部門は異なっていた。
  5. 従って、上司のアドレスを入れなくても業務に支障が生じたことはなかった。

裁判所の判断

 これらに対する裁判所の判断は以下のとおりでした。

  1. 会社や上司が社員に対し、メールの際には、上司のアドレスを入れることを指導や命令をしていた事実が認められる。
  2. 社員は、上記の指導、命令に対し、これに反してあえて従わないことを繰り返した。
  3. 上司のアドレスを入れなかったことにより、上司が、現に、業務を二重に行うことになったり、業務の情報が上司の耳に入るのが遅れるなど、業務遂行に不利益が生じたことが認められる。
  4. 業務に関連するメールのCCに上司のアドレスを入れるようにとの指示は、上司が社員の担当する業務の内容や進捗状況を、社員の主観的な判断による取捨選択や報告を待たずに早期かつ全般的に把握できるようにするという目的において合理的なものと解され、社員にとって大した労務負担を生じさせるものではない。
  5. 従って、会社の指示、命令は合理的なものであり、社員にとっては特段の正当な理由がない限り、業務上の指示に従うべきである。
  6. 社内の他のシステムで閲読できるとしても上司が社員の担当業務の内容やその進捗状況などのすべてを早期に把握することを妨げられたことは正当化されない。
  7. このように社員が会社の正当な業務上の指示、命令に従わないことを繰り返し、最後まで会社の指示に従わない姿勢を明らかにしたことは、社員が33歳と言う分別のあるべき年齢であったことも考慮すると解雇は正当な理由がある。

本ケースの意義

 業務上のメールの送信方法に関する会社のルールや指示は、「業務の報告」方法に関する指示であり、業務上の必要性、合理性があることと考えられ、業務命令ができる範囲の事柄です。従って、それに従わない社員の行為に対しては、注意、指導、命令という業務上の指導段階を経れば、処分が可能と解されます。

 なお、私的なメールについてまでそのルールが適用されるのが相当かということは別の問題ですが、そのような指示自体は合理性が乏しいと思われますが、会社のパソコンで会社施設内の行為である以上、会社の指示できる事柄であると考えられます。
社員としては、それが不服なら社内で私的なメールのやりとりをしなければよいだけともいえます。ただ、その違反に対する会社の制裁(懲戒処分)の妥当性は業務のメールに関する違反とは違って、許容される範囲は狭いと考えるべきでしょう。