割増賃金について

著者:【社会保険労務士】梶原 浩太

※こちらの情報は2021年5月時点のものです

今回の実務解説テーマにつきまして、基本的な内容と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここ最近私が日々の労務相談をお受けしていく中で改めて重要だと感じたテーマを取り上げさせていただきます。2020年4月1日から未払い賃金などの請求できる期間が2年から5年(当分の間は3年)へと延長される法改正がございました。この改正により割増賃金が今後の労務管理においてより重要なポイントになってくることは間違いございません。
この解説では要点と注意すべき点についてご説明させていただきます。

まずは割増賃金の種類と割増率について確認をしましょう。

※1 : 25%を超える率とするよう努めることが必要です。
※2 : 現在、中小企業は月60時間超の残業割増賃金率が25%ですが、2023年4月1日からは大企業と同じ50%に引き上げられる予定す。

ここで実際の残業代を計算してみましょう。

月給制の場合もまずは1時間あたりの賃金換算を計算します。
「月給÷1年間における1か月平均所定労働時間」で時給単価を計算します。
この時に注意するのは家族手当、扶養手当、子女教育手当、通勤手当、別居手当、単身赴任手当、住宅手当、臨時の手当(結婚手当、出産手当)はここでいう月給に含みません。
※上記手当は家族数や距離、家賃額に比例して支給するものであり、従業員のみなさまに一律で支給する場合は月給に含めます。

基本給:235,000円 資格手当:8,000円 扶養手当:20,000円 通勤手当:15,000円 年間所定休日:122日、1日の所定労働時間が8時間の場合
 {1年間の所定労働日数(365日-122日) × 8時間(所定労働時間)} ÷ 12か月 = 162時間(1年間における1か月平均所定労働時間)
 243,000円(基本給+資格手当) ÷ 162時間(1年間における1か月平均所定労働時間) = 1,500円(1時間あたりの賃金)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を4時間超えた場合
 1,500円 × 1.25倍 × 4時間 = 7,500円 の残業代支払いが必要となります。

次に営業職の方に歩合給を支給されている事業所様もいらっしゃると思いますが、法定労働時間を超えて労働した場合はその部分についても割増賃金が必要です。
歩合給÷その月に働いた時間にて歩合額に関する基礎時給(1時間あたりの単価)を出し、その基礎時給に0.25かけたものが割増単価となります。割増単価に時間外労働時間をかけたものが歩合給に対する割増賃金となります。

歩合が194,000円 法定内労働時間が月176時間 法定外労働が18時間の場合
 194,000円 ÷ (176時間+18時間) = 1,000円
 1,000円×0.25=250円
 250円×18時間=4,500円割増賃金となります。

割増賃金につきましてよくある誤解しやすいケースを2つ取り上げます。

  • 残業手当の計算が手間なので、一律の固定のみなし残業手当を支払うのは問題ないか?

    回答 残業代を一律の業務手当として支給していたとしても実際に支払うべき残業代より固定のみなし残業手当として支給する残業代の方が低い場合は差額の支給をしなければなりません。また実際の残業手当と固定のみなし残業手当との過不足は翌月に繰越相殺することができないというところも注意が必要です。
  • 毎日の労働時間を集計するとき、1分単位で集計することが手間なので、30分未満は切り捨ててよいか?

    回答 1日の労働時間の集計にあたり端数を切り上げることは問題ありませんが、切り捨てることはできません。ただし1か月の労働時間を通算して30分未満の端数を切り捨てし、30分以上の時間を1時間に切り上げて計算ことすることは認められています。

    その他、1時間あたりの割増賃金の計算過程で1時間あたりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、1か月間の時間外労働、休日労働、深夜労働についてそれぞれの割増賃金に1円未満の端数を生じたときは、就業規則に規定した上で50銭未満切り捨てそれ以上を1円に切り上げることができます。

ここまでご説明させていただきました残業代の計算方法につきましては、就業規則に明記しなければなりません。常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則の作成・届け出が義務ですが、10人未満の事業所も今は当然必要になってきております。
労務トラブルが起きる前に未然に防ぐためのツールの一つが就業規則です。この機会に作成・見直しをされてみてはいかがでしょうか。TSCでは就業規則の見直し・作成などのコンサルティング業務もお受けしておりますので、お気軽にご連絡ください。

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