雇用契約と業務委託契約

著者:【社会保険労務士】谷本 貴之

※こちらの情報は2021年7月時点のものです

70歳までの就業機会確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が2021年4月1日施行されました。努力義務(自社に高年齢者がいない場合も含む。)ですが何も検討しない状態であれば努力義務違反に問われ指導・助言・勧告の対象となる場合もありますし、今回の改正からは将来の定年を70歳とする国の指針を読み取ることが出来ます。高年齢者の方の労働力は今後も会社の大きな力になり得る事から、自社に見合う制度の構築は今後必要不可欠になってくると考えられます。
今回の改正の具体的な内容としては、定年年齢の引上げ、定年の廃止等の5つの選択肢から70歳までの就業機会確保措置を選び制度を導入する事になりますが、その1つに「継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」があります。雇用契約(労働者)ではなく、業務委託契約(個人事業主)として働くという選択になります。安易な業務委託契約への変更には様々なリスクが伴いますので、雇用契約と業務委託契約の性質の違いについてスポットを当てて説明をして行きたいと思います

まず雇用契約と業務委託契約との違いによる主な法令適用の有無についてですが、業務委託契約では労働者として扱われず、個人事業主のような自営業として扱われるため、社会保険制度(労災保険・雇用保険(失業手当等)・社会保険)の適用がなく、(*国民健康保険等には加入できます。)そして法定労働時間という制約がないため、残業代支給も不要で、賃金規制が無く、最低賃金以下の報酬及び報酬の減額、解雇規制が無く、会社等からの突然の契約解約も有り得ます。
税金(所得税・消費税)に関しては業務委託契約による場合、報酬は外注費として計上され、消費税の仕入税額控除の対象・納付する消費税を控除できますが、雇用契約の場合、報酬は給与に該当する為、源泉所得税を徴収する必要があり、また仕入税額控除対象外の為、収める消費税から控除できないなどが挙げられます。

仮に形式上業務委託契約の形態ではあるが、実質的には雇用契約であると認定されると

  • 保険料(労働保険料、社会保険加入条件を満たす場合は社会保険料)の負担(過去に遡って負担する必要が出てくる。)
  • 追加の賃金支払い(最低賃金を下回る報酬金額を設定していた場合。)
  • 未払い残業代の支払い(法定労働時間超えて労働していた場合。)
  • 有給休暇の付与、健康診断を受診させる義務、その他安全配慮義務など
  • 外注費(業務委託契約)を給与(雇用契約・労働者)と認定されると、所得税、社会保険料を相手方に支払ってもらう必要

などが出てきます。
給与となった分の源泉所得税を徴収され、また外注費に掛かっていた仕入消費税が給与となることで不課税となり控除されていた仕入消費税分はそのまま追徴課税となり、雇用契約と認定されたタイミングでその義務を負わなければならなくなる可能性があります。

では雇用契約か業務委託契約かはどのような基準で判断されるかについてですが、基準については、昭和60年12月19日 に旧労働省、現在の厚生労働省の労働基準法研究会の労働基準法研究会報告にて示されています。

会社(使用者)に使用され従属しているかについての基準(使用従属性)

㋐仕事の依頼、業務従事の指示等に対する許諾(断れるかどうか)の自由の有無
 許諾の自由がないことは指揮監督関係(雇用契約)を肯定する重要な要素となります。

㋑業務遂行上の指揮監督の有無
 会社(使用者)が業務の具体的内容及び遂行方法を指示し、業務の進み具合などを本人からの報告等で把握、管理している場合は、指揮監督関係(雇用契約)を肯定する重要な要素となります。

㋒拘束性の有無
 勤務時間が定められ、本人の報告等により会社(使用者)が管理している場合には指揮監督関係(雇用契約)を肯定する重要な要素となります。

㋓代替性の有無
 当該業務につき代替性(他の者でも業務が行える業務かどうか)がない場合、指揮監督関係(雇用契約)を肯定する要素となります。

㋔報酬の労務対償性の有無
 報酬が時間給、日給、月給等時間を単位として計算されている場合は指揮監督関係(雇用契約の要素)を補強する要素となります。

以上㋐~㋒までにおいて雇用契約を否定する要素に該当する場合は、会社(使用者)との間に使用従属性が認められず、業務委託契約と判断される可能性が高いということになりますし、㋐~㋔全てにおいて雇用契約の要素を否定する要素に該当する場合は、会社(使用者)との間に使用従属性が認められず、業務委託契約と言えます。
㋐~㋔までで判断がつかない事例ではさらに以下の3つを判断基準に追加し総合的に判断します。


㋕事業者性の有無(労働者ではなく一事業者としての要素)
 【機械、器具の負担関係】機材業務で使用する機械、器具が会社(使用者)より無償で貸与されておらず、自ら準備したものを使用する場合は業務委託契約の要素を強め、雇用契約の要素を弱める。
 【報酬の額】報酬の額が同社の同種の業務に従事する正社員に比べて著しく高額な場合(業務で使用する機械等の費用を自己負担するため高額の報酬を支給する場合)は業務委託契約の要素を強め、雇用契約の要素を弱める。報酬の額が同社の同種の業務に従事する正社員と同等程度の場合は業務委託契約の要素を弱め、雇用契約の要素を強める。

㋖専属性の程度
 【専属性】他社の業務に従事することが制約されている又は事実上困難な場合、専属性が高くなり雇用契約の要素を補強する要素となる。他社の業務に従事することが制約されていない又は事実上可能な場合は雇用契約の要素を弱める。
 【報酬の性格】報酬に固定給部分があるなど生活保障的要素が強いと認められる場合も雇用契約の要素を補強する。

㋗その他の要因
 報酬について給与所得として源泉徴収を行っている、労働保険の対象としている場合は雇用契約の要素を補強する。
 採用、選考過程が従業員と同様の場合は雇用契約の要素を補強する。
 退職金規定、福利厚生制度、服務規律(社内規定)を適用している場合は雇用契約の要素を補強する。

以上が厚生労働省の判断基準です。判断項目が多く、分かり難い点もありますが、一言で言えば、使用従属関係(独立した個人と個人の関係なのか、事業主と労働者の上下関係なのか。)があるかどうかだと言えます。

最後に

雇用契約と業務委託契約は似ているようで性質は全く異なるものです。仮に70歳までの就業機会確保措置として継続的に業務委託契約を締結する制度の導入をする場合には、労使ともに法令をよく理解し、雇用契約と業務委託の法的性質の違い(メリット・デメリット)を十分確認し、信義に従い誠実に運用することが求められます。このように運用することが出来れば、業務委託契約は70歳までの就業機会確保措置及び今後の働き方の多様性を確保する上で広義での雇用形態の一つの手段に成り得るのではないかと考えられます。
70歳までの就業機会確保に関しては、厚生労働省ホームページにて確認頂けますが、TSCでも各種相談を受付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。


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