業務委託契約者と国の労災保険
※こちらの情報は2022年3月時点のものです
「業務委託契約」や「フリーランス」という言葉を近年よく耳にします。コロナ禍と言われる状況で飲食店の宅配化に拍車がかかり、宅配を事業とする企業と業務委託契約を結び、宅配業務を本業または副業として従事される方々が増えたということ、また配達中に交通事故を起こしてしまい、ケガをされた方から、業務委託契約を個人の方々と結んでいる企業に対して使用者責任を問われたことをテレビのニュースで何度か取り上げられたことも、記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今後さらに業務委託契約としての働き方は増えていく傾向にありますので、今回は「業務委託契約者」と「国の労災保険」についてお話をさせていただきます。
業務委託契約とフリーランスの言葉の意味
業務委託契約とフリーランスは同じ言葉ととらわれがちですが意味が違います。
- フリーランス : 企業や組織には所属せずに個人で業務を請け負う「働き方」を指す言葉。
- 業務委託契約:クライアントから業務を委託してもらい、業務を行うことにより報酬を支払ってもらう契約のこと。
ほとんどのフリーランスの方は、この業務委託契約を企業と契約して働かれています。
業務委託契約とは
業務委託契約とは「請負契約」※1または「委任契約(準委任契約)」※2の総称となります。
- ※1「請負契約」: 仕事の完成に対して報酬が支払われる契約
【例】大工、フードデリバリー配達員、個人タクシーの運転手 - ※2「委任契約」: 仕事の履行に対して報酬が支払われる契約
【例】弁護人代行業務、ソフトウェアの開発の要件定義
国の労災保険の特別加入制度について
労災保険は、本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度ですが、労働者以外でも、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の人には特別に任意加入を認めています。これが、特別加入制度です。そして特別加入制度は大きく分けて次の5種類に分類されます。
- 中小事業主
- 一人親方その他自営業者※
- 特定作業従事者
- 海外派遣
- 農業者
※労働者を使用する場合であっても、労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たないときには、一人親方その他自営業者として特別加入することができます。
「一人親方その他自営業者」の特別加入制度
先程記載させていただいた5種類に分類された中の1つの「一人親方その他自営業者」の特別加入制度が、フリーランスとして業務委託契約を企業と結び働かれている個人事業主の方々のための国の労災保険となります。
常態として人を雇わずに個人事業主としてお仕事されている方は、事業主でもあり、かつ一般の労働者以上に労働者と言えます。そしてこの「一人親方その他自営業者」の特別加入制度は対象事業として、以下9種類の事業が加入できることになっています。
- 個人タクシーや貨物運送(自転車含む)
- 建設業
- 漁船による自営漁業者
- 林業
- 医薬品の配置販売業者
- 再生資源取扱業者
- 船員
- 柔道整復師
- 創業支援等措置に基づく高年齢者
令和3年4月から一人親方の対象事業に上記⑧と⑨が追加されました。また別の分類となりますが、特定作業従事者としての特別加入制度にも、芸能関係作業従事者、アニメーション制作作業従事者、ITフリーランス等の業種が追加されています。そして令和3年9月1日からは上記①個人タクシーや貨物運送に自転車を使用して貨物運送事業を行う者も、特別加入の対象に追加されています。今後この特別加入制度の範囲の拡大は進んでいく方向であることは間違いないでしょう。
複数事業労働者の労災補償と特別加入制度についてご注意ください!
複数事業労働者の労災給付について法改正があり令和2年9月1日より施行され、複数事業労働者の方やその遺族等の方への労災保険給付は、全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎として、保険給付額を決定することになりました。「複数事業労働者」とは被災した(業務や通勤が原因でけがや病気、死亡等)時点で、以下①~③に該当する方をいいます。
- 事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方。
- 1つの会社と労働契約関係にあり、他の就業について特別加入している方。
- 複数の就業について特別加入をしている方。
【例】
《現行制度》
《改正後》
上記の図はA社・B社とも労働契約関係として働いている場合ですが、特別加入者として働かれている場合も同じ考え方となります。ここで注意しなければいけないことは、どちらの会社も労働契約関係であれば、労働者として労災対象となりますが、特別加入はあくまでも特別に加入できる任意の制度となりますので、特別加入に加入していないと複数事業労働者としての給付は受けられないということです。
【例】
- A氏:本業(会社勤め)と副業(業務委託契約のデリバリー配達員)をしている。
会社では労働契約で働き、デリバリー配達員として特別加入に加入している。 - B氏:本業(会社勤め)と副業(業務委託契約のデリバリー配達員)をしている。
会社では労働契約で働き、デリバリー配達員として特別加入に加入していない。
A氏が労災事故として被災された場合
⇒本業・副業どちらで被災された場合も複数事業労働者の労災給付となる。
B氏が労災事故として被災された場合
⇒本業で被災された場合のみ本業の分の労災給付のみ給付される。副業で被災された場合は国の労災給付は一切ない。
今後も副業などの働き方は増加傾向にあり、副業では業務委託契約で個人事業主として働かれる場合は、ご自身あるいはご家族のためにも、この特別加入制度にご加入いただくことをお勧めいたします。
TSCでは各種特別加入制度をご利用いただけますので、何なりとお問い合わせください。
※弊社では、働き方改革に関するご相談、また36協定の作成・提出も承っております。
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