職務遂行能力が不足している社員への対応について

著者:【社会保険労務士】宮本 竜輔

※こちらの情報は2022年6月時点のものです

コロナ禍等で経営環境が厳しくなる中、企業には「ヒト」、「モノ」、「カネ」という経営資源を最適化することが今まで以上に求められています。企業としては「ヒト」の最適化のために、職務遂行能力が不足している社員や、勤務態度の悪い社員をできる限り減らしたいところではありますが、採用のプロセスをいくら厳格化しても、一定数の社員を採用すれば、企業が期待していた職務遂行能力を発揮できない社員は必ず発生してしまいます。そして、企業がそのような社員を漫然と放置した場合には、他の社員のモチベーションの低下を招き、組織の機能不全を招きかねません。そのような社員の対応で、最も陥りがちな失敗例は、企業が十分な指導を行わないまま事態を放置し、抱えきれないと判断するに至った時点で直ちに解雇に踏み切り、社員と不毛な紛争に突入していくことです。このような事態を避けるためにはどのような対応が企業に求められるのでしょうか。今回は能力不足社員への具体的な対応について説明させていただきます。

裁判例に見る能力不足社員の解雇における基本的な考え方

能力不足社員を解雇する場合、裁判所はどのような点を考慮して解雇が有効か無効か判断するのでしょうか。これまでの裁判例の判断基準をまとめると、基本的には①雇入れ時における要求水準に照らして、客観的に見ても職務遂行能力が著しく低く、②企業として改善に向けた努力(改善指導・人事異動等)を尽くしたにもかかわらず、③本人(社員)に改善の見込みが見られなかったことが求められる傾向にあります。

業務改善指導のフローについて

現実問題、前述させて頂いた①から③の考え方を踏まえて解雇に踏み切ったとしても、裁判で解雇が無効となる可能性はゼロではありません。その為、能力不足社員の存在が認識された場合には、業務改善指導を行い、配置転換可能な社員であれば、配置転換も検討して頂き、それでも改善の余地がない場合はすぐに解雇に踏み切るのではなく、まずは退職勧奨(会社より社員に退職を促し、社員の同意を得て退職をしてもらう方法)を行うのが一般的です。また、しっかりとした業務改善指導を行うことで、社員に能力不足であることを自覚してもらいやすくなり、退職勧奨をスムーズに進めていくことができます。
では「しっかりとした業務改善指導」とはどのような点に注意して行っていく必要があるのでしょうか。それは「早期に、社員も内容にできる限り同意している業務改善計画書を作成し、改善期日が到来したら振返り(レビュー)を行っていく」必要があります。

業務改善計画書について

業務改善計画書は(a)現在の問題点、(b)会社が期待する成果、(c)改善評価方法、(d)改善のためのプラン、(e)改善期日を記載します。次に各項目における注意点を列挙させていただききます。

  • (a)客観的な事実を記載し、能力不足により生じた具体的な支障も記載する。
  • (b)高すぎる水準を設けない(他の社員は全員達成できている水準などが望ましい)。
  • (c)具体的・定量的な評価尺度を定める。
  • (d)(a)と(b)とのギャップを埋めるための具体的なプランを策定する。
  • (e)(d)のプラン内容によるが、1~2か月前後とし、レビューを行う必要がある。

また(d)のプランを実施する中で、個別指導を行っていく場面もあると思いますが、この個別指導時にも指導内容はできるだけ記録の残るメールやチャットを利用していただき(電話や口頭の場合は議事録をつけておく)、パワーハラスメントに該当しないように注意が必要です。レビューを行う場合も、どのギャップが解消できていないのか、また解消するためにどのようなプランが必要なのかを面談で社員と確認し、レビューの記録をつけておく必要があります。

最後に、一口で能力不足と言っても、その状況や原因は千差万別のため、実際の対応は個別に対応していく必要があります。そのため対応に迷われた場合は、専門家に相談することをお勧めいたします。
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