労働条件の不利益変更と整理解雇について

著者:【社会保険労務士】小林 研矢

※こちらの情報は2022年8月時点のものです

長引くコロナ禍で、事業の存続や雇用を維持するために感染対策や助成金・補助金の活用等、様々な取り組みを続けてきた事業者も多いことと思われます。また、その一方で業績悪化によって、労働条件の低下(不利益変更)や人員整理(整理解雇)等を余儀なくされる事業者も少なからずあることでしょう。そこで今回は、労働条件の不利益変更や整理解雇の注意点について解説いたします。

労働条件の不利益変更について

【原則】

常時10人以上の労働者を使用する事業主には就業規則の届出が義務付けられています。また常時10人未満の労働者を使用する事業主であっても就業規則を周知することによって法的効力を持ち労働条件が確定しています。その為、一旦確定された労働条件を変更(不利益変更)する場合には労働者の同意を得ずに一方的に行うことは原則できません。

労働契約法第9条

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

【例外】

労働者にとって不利益となる変更であっても、その変更に対して「合理性」がある場合に限り必ずしも同意を要しません。尚、合理性の判断については後述の通り過去の判例で総合的に判断されています。

  • 労働者が被る不利益の程度
  • 使用者側の変更の必要性の内容・程度
  • 変更後の就業規則の内容自体の相当性
  • 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  • 労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の労働者の対応
  • 同種事項に関する我が国の一般状況

~第四銀行事件 最高裁判決(平成9年2月28日)~

整理解雇について

【整理解雇とは】

整理解雇とは、事業所の業績悪化等の事由によって、やむを得ず労働者を解雇することです。労働者の私傷病や非違行為等、労働者の責に帰すべき事由による普通解雇と異なり、事業主の都合による解雇であることが大きな違いです。

【整理解雇の4要素】

前述した通り、整理解雇は事業主の都合による解雇である為、整理解雇が有効とされる為には慎重に行う必要があります。過去の判例ではその有効性について以下4つの要素によって総合的に判断されています。

  • 人員削減の必要性
    経営上、人員整理する必要性がどの程度あるかが問われます。倒産を免れることができない程の状況であることを問われる例もありますが、経営上合理的に必要性があれば足りるという例もあり、明確な基準はありません。その他の要素と総合的に判断されることになります。
  • 解雇回避努力義務
    解雇を回避する為にどの程度の措置を講じてきたかということです。具体的には、役員報酬の削減・不支給、時間外・休日労働削減、希望退職者の募集等が挙げられます。
  • 人選基準の合理性
    誰を整理解雇の対象とするか合理的に判断する必要があります。欠勤・遅刻・早退回数や過去の懲戒処分、年齢や勤務成績等が判断基準になります。また扶養家族の有無等、生活への影響も判断基準になるといえます。
  • 手続きの相当性
    整理解雇に至る説明を十分に行う必要があります。また整理解雇の時期等も労働者の生活等を配慮した上でしっかりと話し合う必要があります。

まとめ

コロナ禍において、やむを得ず労働条件の不利益変更を行う場合には合理性がある場合であっても同意を得て行うことが最善です。また整理解雇は事業存続の為の最終手段です。事業者にとって、できる限りの対応を十分に検討する必要があります。そして、どのような場合においても先ずは労働者としっかり話し合いをすることが大切です。