従業員の安全配慮義務について

著者:【社会保険労務士】早川 実

※こちらの情報は2018年5月時点のものです

 企業にとって従業員の安全や健康に注意を払うことは重要です。従業員の健康状態が悪化すれば仕事の質にも影響することがあるでしょうし、長時間労働が原因で脳や心臓、精神に疾患が発生するようなことになれば、状況によっては企業側の安全配慮義務違反を問われるということにもなりかねません。

 労働基準法において労働時間の管理や時間外手当の支払いなどに注意するのと同様、従業員の安全や健康にも配慮をすることが企業には求められているのです。

 今回は、従業員の安全配慮義務を謳った労働契約法第5条の内容と、健康状態を把握する手段である定期健康診断を取り上げて参ります。

労働契約法第5条について

 労働契約法第5条によると「使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められており、企業は当然に労働者の安全配慮義務を負うことが明記されています。

 この法律の根拠にもなった昭和59年4月の最高裁判決においても、「労働者が労務提供のために設置する場所、設備、もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である」と示されています。

 なお、「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれており、この規定は、脳や心臓疾患による過労死・うつ病などの精神障害の際に、労災補償の請求とは別に、従業員が企業を相手に民事上の損害賠償請求をするための根拠規定となり得る点にも注意が必要です。

 では、どのような措置を講じていれば安全配慮義務を果たしたことになるのかというと、それは一律に言えるものではなく、職種や業務の内容などの具体的な状況に応じて対応策は異なりますし、個々の従業員の健康状態にも個人差がありますので、それぞれの事案ごとに判断せざるを得ません。
例えば、安全装置の設置、保護具着用の義務化、安全衛生教育の徹底、長時間労働の防止といった措置は一つの対応策になるでしょうし、安全衛生法などの法令を遵守するということも重要な要素といえるでしょう。

定期健康診断について

 従業員の健康状態を把握する方法として、定期健康診断があります。安全衛生法において、企業は常時使用する全ての従業員に対して毎年1回定期健康診断を実施しなければならないとされています。

 健康保険制度において生活習慣病予防を目的に35歳以上の労働者を対象にした健康診断が実施されており、その検査項目は安全衛生法上の検査項目を満たしていますので、これを行えば義務を果たしたことになります。
35歳未満の従業員に対しては、安全衛生法に則った健康診断を1年に1回受診させる必要があります。1年に1回ということで、実施をうっかり忘れてしまっているということはありませんでしょうか。

 なお、特定業務と呼ばれる業務(例えば深夜業など)に従事する従業員については、6カ月に1回健康診断を実施しなければなりません。

定期健康診断の後には

 健康診断の結果が「異常あり」と診断された従業員に対しては、精密検査や治療のために病院に行くように通知するようにし、状況に応じて就業場所や職務内容の変更、労働時間の短縮などの措置を行う必要があります。

 また、労働者数50人未満の小規模事業場であれば、全国各地にある「地域産業保健センター」にて、健康診断結果についての医師からの意見を聴いたり、長時間労働者への面談指導といったサービスを無料で受けることが出来ますので、こういった行政サービスを積極的に活用してリスク対策を講じていくことが大切です。

 日々の会員企業様からのご相談においても、長時間に渡る残業が恒常的に行われていたり、機械の使用に関して安全措置が十分に取られていなかったために残念ながら大きな事故に繋がってしまったケースもお聞きしています。

 安全や健康管理は従業員個人だけの問題ではなく、労働環境を提供する企業の責任でもあるということを再度認識し、出来ることから一つずつでも取り組んで頂ければと思います。