高年齢雇用継続給付金の今後と高齢者等雇用
※こちらの情報は2023年6月時点のものです
60歳以降の収入減少を補う為の高年齢雇用継続給付金ですが、2025年から段階的に支給率が引き下げられ、2030年には廃止される予定です。
高年齢雇用継続給付金制度の廃止スケジュール
現行では高年齢者の60歳〜65歳までの賃金が60歳到達時の61%以下になった場合、減少額の15%相当額が雇用保険被保険者に支給されます。2025年4月以降は、高年齢者雇用継続給付金の最大給付率が15%から10%に引き下げられ、2030年4月以降は高年齢雇用継続給付金制度の廃止が予定されています。
高年齢雇用継続給付の縮小の施行前・施行後の高年齢雇用継続給付率
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現行 2003年改正(同年5月施工) | 見直し後 2025年4月施工 | |
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給付率 | 賃金の原則 15% | 賃金の原則 10% |
賃金と給付額の合計が60歳時賃金に比して ●70.15〜75% : 給付額は逓減 ●75%以上 : 支給なし | 賃金と給付額の合計が60歳時賃金に比して ●70.4〜75% : 給付額は逓減 ●75%以上 : 支給なし |
高年齢雇用継続基本給付金の支給対象者
高年齢雇用継続基本給付金の支給対象者は、下記の条件をすべて満たす者です。
- 失業保険による基本手当や再就職手当を受給していない。
- 60歳時点と60歳以降の賃金を比較した際に、75%未満に低下している。
- 60歳以上65歳未満で雇用保険の一般被保険者である。
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上ある(60歳以前の通算。)(60歳時点で被保険者期間5年未満でも5年に達することで受給可能。)
仮に賃金が60歳時点の75%未満ではない者でも、65歳までに75%未満に低下することがあれば、その時点から支給対象となります。
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賃金の低下率 | 支給率 | 賃金の低下率 | 支給率 | 賃金の低下率 | 支給率 |
---|---|---|---|---|---|
75%以上 | 0.00% | 70.0% | 4.67% | 65.0% | 10.05% |
74.5% | 0.44% | 69.5% | 5.17% | 64.5% | 10.64% |
74.0% | 0.88% | 69.0% | 5.68% | 64.0% | 11.23% |
73.5% | 1.33% | 68.5% | 6.20% | 63.5% | 11.84% |
73.0% | 1.79% | 68.0% | 6.73% | 63.0% | 12.45% |
72.5% | 2.25% | 67.5% | 7.26% | 62.5% | 13.07% |
72.0% | 2.72% | 67.0% | 7.80% | 62.0% | 13.70% |
71.5% | 3.20% | 66.5% | 8.35% | 61.5% | 14.35% |
71.0% | 3.68% | 66.0% | 8.91% | 61%以下 | 15.00% |
70.5% | 4.17% | 65.5% | 9.48% |
低下率61%以下 | 低下率61%を超え75%未満 | 低下率75%超 |
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支払われた賃金額×15% | 支払われた賃金額×15%から 低下率に応じ一定の割合で減じられた額 | 不支給 |
支給対象外になる主なケース
- 役員だった者(雇用保険に加入していないため。)
- 60歳以降、雇用継続後の勤務が週2~3日などで、1週間20時間未満の者(雇用保険非加入になる者。)
- 雇用継続後の賃金が364,595円以上の者
継続雇用後の賃金が、退職時の賃金月額から75%未満になっていない者に加え、そもそも雇用保険に加入していない者、雇用継続後に雇用保険非加入になる者などは、高年齢雇用継続給付金の対象外になるので、注意が必要です。
高年齢雇用継続基本給付金の支給期間
高年齢雇用継続基本給付金の支給期間は、60歳になった月から65歳になる月までと定められています。ただし、支給月については、1日から月の末日まで、雇用保険の被保険者でなければなりません。もし、65歳になる月の半ばで退職した場合、該当月は給付金が支給されないため注意が必要です。
支給上限額と支給下限額
支給上限額があり支給対象月に364,595円以上の賃金が支払われた場合は給付金は支給されません。75%未満に低下し、給付金の算定はされたものの、支給対象月に支払われた賃金と給付金の合計で支給上限の364,595円を超える場合は、364,595円から支給された賃金を引いた額が支給されます。また下限額2,125円もあり、給付金として算定された支給額が2,125円を超えない場合には支給されません。さらに60歳到達時の賃金月額(原則60歳に到達する前6か月間の平均賃金)にも上限額・下限額があります。下記の上限を超える高い水準の賃金月額を60歳前に支給されていて上限金額から75%未満の低下率を見ることになります。下限額も同様です。
令和4年8月1日現在の上限額は478,500円、下限額は79,710円です。それを超える、あるいは下回る場合は、この上限額・下限額を使って支給額が計算されます。
※支給限度額と賃金月額の上限額・下限額は、毎年8月1日に改定されます。
その他の注意点
高年齢雇用継続給付金は、【特別支給の老齢厚生年金】を受給をすると一定額年金がカットとなります。高年齢雇用継続給金付は、加齢による心身の衰えを理由として、60歳以降に給与が減った場合にそれを補う事を目的として支給されます。一方で年金も、年齢による心身の衰え(稼得能力の喪失)を理由として支給されるものになります。類似の目的で、雇用保険と社会保険(年金)という2つの制度から重複支給されてしまう為、重複部分は調整をされ、年金がカットされる仕組みになっています。なお、高年齢雇用継続給付(雇用保険)は会社員等を対象としており、年金がカットされるのは同じ会社員等を対象としている老齢厚生年金(厚生年金保険)の部分となります。老齢基礎年金(国民年金)についてカットはされません。最大で【標準報酬月額の】6%がカット。いくら年金がカットされるのかは、高年齢雇用継続給付金として実際に支払われる賃金の何%分を受給するかによって変わり、高年齢雇用継続給付金によって、実際に支払われる賃金の15%が支給される場合、老齢厚生年金は標準報酬月額の6%がカットされる事になります。高年齢雇用継続給付金が支給された場合に年金がカットされる仕組みですので、60歳以降も給与が変わらず、給付金が支給されない場合は年金もカットされないので、60歳前後で給与体系がどう変わる可能性が有るかを事前に確認しておくのが理想的です。
※特別支給の老齢厚生年金とは、昭和60年の法改正により、老齢年金が60歳支給から65歳支給へ変更になった際の緩和措置として、男性S36年4月1日以前生まれ、女性S41年4月1日以前生まれを対象に支給される特別な老齢厚生年金。
※標準報酬月額は、毎年1回7月に4・5・6月に支給された報酬(給与や各種手当など)の平均額を「標準報酬月額表」に当てはめて決定された等級(月額)です。
まとめ
高年齢雇用継続給付金が縮小され、またいずれは廃止となることを受け、今後は60歳前後の賃金変動をカバーする高年齢雇用継続給付金に頼らない賃金制度設計が求められます。特に、高年齢雇用継続基本給付金による給付を60歳到達によって減少した給与の補填と捉えていた企業は、賃金設定に関しては以下の対応等が必要になると考えられます。
①雇用継続基本給付金に頼らない賃金制度への見直し
高年齢者を雇用する企業の中には、高年齢雇用継続給付金を頼りに、60歳以上の者の給与額を低く設定している場合が多く、将来的な制度廃止を見越して、今から給付に頼らない賃金設定への変更を検討する必要性があります。
②年齢によらない処遇の検討
同一労働同一賃金もあり、年齢を理由に賃金を低減させる制度を見直す時期に来ており、成果を出す者が、年齢に関わらず処遇される制度を検討する必要があります。定年延長の動きや高年齢雇用継続給付金の廃止の動向をみると、高年齢であっても実力を生かし、平等な処遇を受け、働き続ける事のできる環境がある事が支持されてきている現状が伺えます。
2025年の法律改正を契機に、上記の様な働く年齢を意識させない賃金報酬制度(役割、成果、貢献度に応じて賃金を払う制度)を構築すると共に、資質や能力、職務経験、健康状態、定年後の働き方に対する考え方や希望する職種、業務形態などを自発的に考えてもらい、自身のキャリアプランに落とし込む事を会社側が支援する事もとても重要になります。性別や年齢に偏見や縛りがない、生涯現役社会の実現、そのためにもシニア層及び全ての者が働きやすい環境づくりの整備が求められているのです。
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