家主の交代と新たな契約書の作成の必要性

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2018年8月時点のものです

Q 相談内容

 私は、家主であるAさんから、3年前、期間5年で店舗兼自宅として建物を借りて、営業しながら住んできました。

 ところが、最近、Cという人が現れ、「この建物をAさんから買って、私が家主となった。改めて契約を結んでほしい。ついては、その際、家賃も1万円値上げする」と言われました。
 私は、Cさんの要求に応じなければならないのでしょうか。

A 回答

 家主が変わった場合、新たに契約書を作成してほしいといわれることはよくあることのように思われます。

 まずは、家主が変わったのか否か、すなわち建物の所有権が移転したかどうかを調べる必要があります。

 建物の所有者が変わった場合、建物を借りている人に対して、自分が家主なのだと主張するためには、不動産登記簿上その建物の所有者となっている必要があります。
 これを、民法では「対抗要件」といいます。不動産の登記なしに対抗できないというのが民法の原則です。したがいまして、まだ不動産登記簿上の所有名義がAさんのままであれば、Bさんは自分が賃貸人であることの主張ができないことになります。
 その場合、あなたは、従前どおり、家賃はAさんに支払えば足ります。
 この不動産登記簿謄本は、法務局で誰でも閲覧することができます。

 では、Bさんが、不動産登記簿上所有者となっていた場合にはどうでしょうか。

 借地借家法では、建物の賃借権は、そこに居住していることによって、直接契約をした家主以外の人に対してでも、その賃借権を主張して対抗できるとなっています。

 この場合、Aさんの賃貸人たる地位は、そのままBさんに引き継がれることになります。したがいまして、あなたはAさんとの賃貸借契約の内容をそのままBさんに主張することができるわけです。

 このことから、あなたは新たに契約書を作成する必要はありません。また、家賃増額の請求に応じる義務もありません。
 仮に、Bさんが従前の家賃を受けとらないという場合、法務局で家賃の受領拒絶を理由として従前の家賃を供託しておいてください。供託をすることによって、家賃を支払ったという効果が生じます。
 これをしておかないと、家賃の不払いにより契約解除事由になりかねませんので、注意が必要です。