労働基準法上の管理監督者とは

著者:【社会保険労務士】野田 学

※こちらの情報は2019年10月時点のものです

「管理職だから残業手当は必要ない」…。
よく言われることですが、会社内で管理職としての地位にある労働者でも、労働基準法上の「管理監督者」に当てはまらないことがあります。また、「飲食店の店長は管理職ではない」とし会社に時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務を命じた判決を耳にしたことがある方は多いのではと思います。

そこで今回は、一般的に広くとらえられがちな労働基準法が定める管理監督者について、会社が押さえておくべきポイントを解説させて頂きます。

管理監督者とは

労働基準法が定める管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と定義され(労働基準法第42条第2号)、運用上は労働基準法で定められた労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません。

例えば、1週40時間、1日8時間の法定労働時間の規定や1週1日の休日付与の規定が適用されないということですから、残業や休日出勤をしても残業手当や休日出勤手当を支払う必要がないということになります。

この制度は、対象者が事業経営の管理的立場にある者又はこれと一体をなす者であり、労働時間、休憩及び休日に関する規定の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性から認められています。
しかし、深夜業・年次有給休暇に関する規定は適用されますので深夜(22時から翌日5時)に労働させた場合は深夜割増賃金(2割5分)を支払う必要がありますし、有給も一般労働者と同様に与える必要があることに注意が必要です。
また、36協定等の労使協定の労働者過半数代表者になることができません。

管理監督者の判断基準

管理監督者に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様等、待遇を踏まえて実態により総合的に判断されます。

厚生労働省の通達で示された、管理監督者に該当するためのポイントをまとめると以下の3点となります。

労働条件の最低基準である労働基準法の適用を除外するからには、厳格に判断されなければなりません。もちろん会社によって組織や職制は様々ですから、以下の判断に当てはまるかどうか一律の基準で判断することはできません。

1.経営者と一体的な立場で仕事をしている

管理監督者といっても取締役のような役員とは違い、労働者であることには変わりありません。
しかし、管理監督者は経営者に代わって同じ立場で仕事をする必要があり、その重要性や特殊性から労働時間等の制限を受けません。経営者と一体的な立場で仕事をするためには、経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限を委ねられている必要があります。

一方、「課長」「リーダー」といった肩書きであっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事案について上司に決済を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するにすぎないような場合は管理監督者に含まれません。また、営業上の理由から、セールス担当社員全員に「課長」といった肩書きをつけているケースも見られますが、権限と実態が伴わなければ管理監督者とは言えません。

2.出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない

管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあり、また労務管理においても一般の従業員と異なる立場に立つ必要があります。このような事情から、管理監督者の出退勤時間は厳密に決めることはできません。
また、勤務時間の制限がない以上、出退勤も自らの裁量に任されていることが必要です。遅刻や早退をしたら、給料や賞与を減らされてるような場合は管理監督者とは言えません。

3.その地位にふさわしい待遇がなされている

管理監督者はその職務の重要性から、地位、給料その他の待遇において一般社員と比較して相応な待遇がなされていることは当然といえるでしょう。特に「スタッフ職」と呼ばれる人事、総務、企画、財務部門において経営者と一体となって判断を行うような専門職については、他の部門の管理監督者と同等の地位、給与等の待遇がなされていることが必要です。

他店舗展開型の小売・飲食業等の店舗

小売業、飲食業等において、いわゆるチェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗においては、店長等の少数の正社員と多数のパート・アルバイト等により運営されている実態がみられますが、この店舗の店長等については、十分な権限や相応な待遇等が与えられていないにもかかわらず労働基準法第41条第2号に規定する「管理監督者」として取り扱われるなどの事案が見られます。

このため厚生労働省では、管理監督者の範囲の適正化を目的として、最近の裁判例などを踏まえて、これらの業種・業態の特徴的な実態から、管理監督者性を判断に当たって特徴的な要素について整理したものが次の表です。

しかし、これらの否定要素に当たらないものがあるからといって、直ちに管理監督者として認められるというわけではありませんので、ご注意ください。