労働契約法について

著者:【社会保険労務士】瀬戸 俊治

※こちらの情報は2020年2月時点のものです

就業形態が多様化し、個別労働関係紛争が増加してきたため、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、「労働契約法」が制定されました。今回は労働契約法から何点かピックアップしてご説明いたします。

労働契約法には罰則なし

皆さんがよくご存知の労働基準法は、罰則をもって担保する労働条件の基準(最低労働基準)を設定しているものですが、労働契約法は労働契約に関する民事的なルールを明らかにしているものであり、罰則の設定はありません。そのため労働基準監督官による監督指導も行われません。ただ判例の蓄積である判例法理が立法化され、労働契約に関する民事的なルールが明らかとなっておりますので、守らなければ個別労働紛争が発生する可能性があります。

就業規則による労働契約内容の変更

第9条及び第10条では一部の場合を除き就業規則の変更をすることで労働契約の内容を労働者の不利益になるように変更することはできません。使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性などが就業規則の変更に係る事情に照らして合理的である必要があるとされています。

下記のような判例が参考になります。

フジ興産事件

就業規則が拘束力を生ずるためには、変更の適用を受ける労働者への周知が必要であるとして、懲戒解雇の効力を争った事件

解雇について

第16条では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とするとされています。労働基準法では解雇について労災被災者や育児休業取得者等に対する制限や手続方法の記載があるのみです。整理解雇の場合には判例により合理的な理由や社会通念上相当であるかどうかについては下記の4要件から判断されます。

  1. 人員削減をする経営上の必要性
  2. 解雇回避の努力
  3. 人選の合理性
  4. 解雇手続きの妥当性

下記のような判例が参考になります。

日本食塩製造事件

解雇権の濫用について争われた事件

有期労働契約の更新

第19条では最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合には雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすとしています。具体的には雇止めが解雇と同視できる場合や労働者が契約更新を期待する合理的な理由がある場合などです。

下記のような判例が参考になります。

日立メディコ事件

有期労働契約の雇い止めについて争われた事件

期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

第20条では有期契約労働者の労働条件と無期契約労働者の労働条件が相違する場合において、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止しております。平成30年6月1日に初めて同条に対する最高裁判所の判決が言い渡されました。最高裁は「賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」との判断を示しました。定年退職後の有期契約労働者に対する労働条件の今後の基準になると思われます。

下記のような判例が参考になります。

ハマキョウレックス事件

有期労働者と無期労働者との間の不合理な労働条件の相違に ついて争われた事件

今回何点かピックアップしてご案内いたしましたが、一度労働契約法の内容をじっくりと確認頂き、個別労働紛争の防止にお役立て頂ければと思います。