贈与税が大きく変わる?
※こちらの情報は2022年1月時点のものです
相続税の節税対策の一環として、広く利用されてきたのが毎年110万円ずつ贈与すれば税金がかからないという贈与税の暦年課税制度(暦年贈与)です。この制度については、現在、贈与税と相続税の一体化を図る改正が検討されています。
と言いましても、今すぐに改正があると決まっているわけではないのですが、まずは贈与税の仕組みを理解し、どのような改正が検討されているのかを知っておくことは大切です。節税という言葉だけに踊らされず、超高齢社会による負担増なども視野に入れ、改正があっても困らない老後の資金計画も立てておきたいものです。
贈与税の仕組み
贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、他から贈与を受けた財産の価額を合計します。続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。この基礎控除額110万円以内であれば贈与税がかかりませんし、贈与税の申告も不要となります。毎年110万円を非課税で推定相続人に移せますから、将来の相続財産が減ることになり、相続税対策として有効な方法です。
贈与税は贈与を受けた人にかかります。仮に両親からそれぞれ110万円ずつもらうと、合計220万円になるので贈与税は課税されます。逆に、親から複数の子どもや孫などに110万円ずつ渡しても、受け取った側は一人110万円以内なので非課税となります。
【例】父から110万円、母から110万円の贈与を受けた場合
贈与税の課税価格={(110万円+110万円)-110万円}=110万円
贈与税額=110万円(基礎控除後の課税価格)×10%=11万円
贈与税の税率は、「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の2種類があります。例えば、直系尊属の祖父や父から20歳以上の孫や子への贈与などには「特例贈与財産用」の税率が適用され、税率が軽減されます。
【一般贈与財産用】(一般税率)
基礎控除後の 課税価格 | 200万円 以下 | 300万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 3,000万円 超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
【特例贈与財産用】(特例税率)
基礎控除後の 課税価格 | 200万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 4,500万円 以下 | 4,500万円 超 |
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税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
改正の方向性
日本の現行制度では、相続時精算課税を選択した場合を除き、相続開始前3年以内の贈与財産についてのみ、相続税を計算する際の相続財産に組み込まれます。つまり相続税の計算の際には3年以内に贈与した財産が加算されることになるわけです。また、贈与税は、相続税の課税回避(累進回避)を防止する観点から、相続税に比べて高い税率が設定されてきました。そのため、非課税範囲で暦年贈与を長期に行うことによって、相続税の大きな節税効果が生じることになるのです。
他方、海外を見てみると、米国では生涯にわたり、ドイツでは10年間、フランスでは15年間の累積贈与額を相続時に一体的に課税する制度となっています。
日本でも、海外のように相続税と贈与税を一体化することで、推定相続人に対する贈与税を実質的に廃止するという議論がなされています。財産を子に渡すのが親の生前か死後かで、資産のある者だけが得をするようなことがあってはなりませんし、格差をなくすという観点からも、「生前贈与」という今までの節税策は使えなくしようというわけです。
このような改正の流れの中で、早く対策をしないといけないという記事もよく見かけます。しかし、老後の資金を贈与により手放してしまうことは大きなリスクを伴いますので、個々人が老後に向けて慎重な計画を立てることが肝要です。
改正の時期については、2021年度の税制改正大綱において提言されたところですので、直ちに実施される可能性は高くないと思われます。当面の間は、相続税の節税対策としては、暦年贈与と下記のような節税策を組み合わせた従前の対策を行うことになるでしょう。
節税策(事業承継を除く)
1.贈与税の配偶者控除
2.住宅取得等資金の贈与にかかる非課税制度
3.教育資金の一括贈与
4.結婚・子育て資金の一括贈与
ただし、暦年贈与は,やり方を間違えると税務署から否認されるケースがありますので、気をつけましょう。例えば、次のようなやり方をした場合などです。せっかくの贈与なので失敗しないように注意したいものです。そして暦年贈与を考えている方は改正に備えて早めの対策を行う方がよいでしょう。
ケース1
子ども(25歳)との間で、1,000万円の贈与をする約束をして、10年間、毎年100万円ずつを同じ時期に贈与した場合などは定期贈与とみなされ、課税されます。
贈与税額=(1,000万円-110万円)×40%-125万円=177万円+延滞税等
ケース2
子ども(25歳)には内緒で、子ども名義の通帳に毎年100万円を10年間入金したとします。この場合には、贈与を受けた子が贈与を受けたことを認識しておらず、贈与契約が成立していないので、1000万円は親の財産とみなされます。