「争族」が起こる事例とこれを防ぐ遺言の活用
※こちらの情報は2022年11月時点のものです
相続を巡る争いは増加傾向にあります。司法統計によると、2019年に遺産の分割を巡って全国の家庭裁判所に持ち込まれた審判・調停の件数は1万5842件で、20年前の1.5倍に増え高止まりが続いています。被相続人が遺産の分け方について明確な遺言を残さないまま亡くなり、遺族の話し合いがこじれる場合が多いのですが、それらの80%は資産総額が5000万円以下のケースで、しかも1000万円以下が35%を占めるとされます。相続争いはけっして資産家だけのことではないことが分かります。遺産の分け方について、相続が「争族」とならないために、親が元気なうちに遺言を書いたり、相続人どうしで話し合っておいたりする必要があるのではないでしょうか。
今回は相続が「争族」になった事例をご紹介します。争いになるケースを事前に知っておけば、防げるものも多くあります。円満な相続のために準備を開始してください。
事例1 遺産が自宅のみ
死亡したAさんの遺産は3000万円の自宅(土地・建物)と預貯金200万円、法定相続人は子供2人。Aさんは遺言を残しておらず、同居する長男に自宅を相続させると生前に話をしていました。しかし次男は遺産分割協議の場で不公平と主張し、対等な相続になるよう要求しました。
Aさんのケースのように自宅に住み続けたい長男と、自宅は欲しがっていない次男が対等に分割するには「代償分割」が選択肢になります。自宅を取得する人が見返りとして他の相続人に自身の資産から代償金を支払う方法です。この例では、次男が預貯金を取得したうえで、長男が次男に1400万円を支払えば対等になりますが、それだけの資金を用意できなければ長男は自宅の取得をあきらめ、自宅を売却してその代金を分けるしかありません。
Aさんの遺言があれば次男は遺留分侵害額のみの請求となるので、次男が預貯金を取得すれば遺留分侵害額として支払うのは600万円に抑えられます。
事例2 長男が親を介護していた
事例1のAさんの介護を亡くなるまで長男夫婦が行っていて、介護費用も長男が負担していました。次男は介護には全く協力をしてこなかったので、長男は次男の法定相続分2分の1の要求は不公平と主張しました。
特定の相続人が亡くなった被相続人を介護していた場合など、相続人間の負担が公平でないと争いが生じます。介護や看病、家業の手伝いなど被相続人の財産の維持、増加に対する貢献は「寄与分」として金額に換算し、これを遺産額から控除したものを相続財産とみなして各相続人の相続分を算定します。そのうえで、「寄与分」を有する相続人の相続分にはこれを上乗せします。しかし、介護や看病などの行為は客観的に金額に換算することが難しく、寄与した相続人とそうでない相続人に考えの違いが生じます。被相続人のために支出した金額が資料によって明確にできれば少なくともその金額は寄与分となりますので、介護等に従事している人は記録と証拠資料を残しておきましょう。そのような資料が残っていない場合などには、貢献の度合いと期間を考慮して金額を定めることになります。相続人間で合意ができなければ、家庭裁判所が審判で「寄与分」の金額を決定します。
遺言を書く際には、このように特別の寄与をしてくれた子供に対する配慮を十分にしておくことで、相続人間の無用の争いを防ぐことができます。
事例3 生前贈与がある
Bさんが急死し、遺言がなかったため妻と子供2人(兄妹)が話し合って5000万円の遺産を分けることになりました。話し合いのなかで、Bさんが生前に兄に住宅購入資金1000万円を贈与していたことが判明しました。妹は兄の相続分から1000万円を差し引くべきと主張しました。
特定の相続人が被相続人から生計の資本等として贈与された財産がある場合は、相続分を計算するときにその贈与財産の価額を相続財産に加算し、この総額に基づいて算定した相続分から贈与財産の価額を控除した残額が当該相続人の相続分となります。残された遺産が5000万円だとすると、これに贈与分1000万円を足し遺産総額は6000万円として相続分の算定を行い、このようにして算定した兄の相続分1500万円から贈与分1000万円を控除することになるわけです。もし残された遺産が少なく、贈与分が算定された相続分以上であれば、贈与を受けた兄は相続分を受けられません。
そして、このように生前贈与した相続人がいる場合にも、あらかじめそのことを計算に織り込んで遺言をしておけば、兄妹が無用な争いをしなくて済むことになります。
事例4 遺言書の不備
Cさんの死後、自筆の「遺言書」が出てきました。しかし遺言の日付が書かれておらず、遺言書に納得できない子供の1人が日付のない遺言書は無効と主張しました。
自筆証書遺言は本文や日付、名前などを自書し、押印する必要があります。要件を満たさない遺言は法的に無効です。この事例のように、失敗の多くが作成年月日の記載漏れだと言われています。そこで選択肢になるのが自筆証書遺言の保管制度です。遺言者が自身で作成した遺言書を法務局で預かってくれる仕組みで、手数料は1通3900円です。預ける前に正しい形式で書かれているかを担当者が確認してくれますので、日付が漏れているといった失敗も起こりません。
今回は、「争族」になった事例を紹介しましたが、全てのケースに共通して遺言書の作成が重要であることがお分かりになったと思います。相続のトラブルのほとんどは遺言の作成によって解決することができます。仲の良かった兄弟姉妹が相続を機に疎遠になってしまう場合もあります。円満な相続の準備としてまず遺言書の作成をしましょう。