社会福祉法人による海外事業の実施等について
著者:【谷野会計事務所】谷野芳江
※こちらの情報は2018年12月時点のものです
技能実習制度における介護職種の追加や、我が国の介護福祉士資格を有する外国人を対象とした「介護」の在留資格の創設に伴い、介護職種の技能実習生や在留資格を持つ介護福祉士等の外国人を、介護分野において円滑に受入れるための取組が開始されています。
社会福祉法人が、新たに海外の機関・法人と連携して事業や取組を行う契機となりますので、平成30年7月2日付で、厚生労働省より「社会福祉法人による海外事業の実施等について」と題する通知が発出されました。
今後、海外事業を実施する社会福祉法人も増えてくることが予想されますので、厚労省通知の内容をご紹介します。また、今回は説明していませんが、同通知別紙2で「社会福祉法人における介護職種の技能実習生の受入れ等について」も具体的な内容が記載されています。
1.社会福祉法人が海外で行うことができる事業等
海外で行うことができる事業等の範囲
社会福祉法人は、社会福祉法第2条の社会福祉事業を行うことを目的として設立されます。国内における福祉ニーズの支援が目的であるため、海外事業を禁止はされていませんが、一定の制約を受けます。
- 社会福祉事業の一環としての活動
国内の社会福祉施設で勤務する介護職員の採用活動及び研修活動については、国内における社会福祉事業の一環として、海外においても実施できるとされています。
法人の職員とは関係のない不特定多数を対象とした研修事業を実施するような場合は、公益事業または収益事業として取り扱うことになります。 - 公益事業として行うことができる事業
日本国内の福祉の向上に直接的に関連する事業(①に該当するものを除く。)又は日本の公的機関(政府機関、独立行政法人又は地方公共団体等)の補助又は助成を受けて行われる国際貢献のための事業については、公益事業として実施できます。 - 収益事業として行うことができる事業
収益事業として行うことができる事業については、国内における事業実施の場合と同様に実施できます。また、公益事業として実施できないものであっても収益事業として実施できる場合があります。
2.具体的な事業例
社会福祉事業
国内の社会福祉施設で勤務する介護職員の採用活動及び研修活動
公益事業
- 送出国の送出機関や準備機関と連携し、研修事業の委託、講師の派遣等を通じて、介護職種の技能実習生候補者の送出し支援等を行う事業
- 送出国の日本語学校等の教育機関等と連携し、介護福祉士を目指す外国人留学生候補者の受入れ支援等を行う事業
- 海外で介護人材を募集・育成し、国内での就労へと誘導するための事業
- (独)国際協力機構(JICA)等から助成を受けて行う国際貢献事
(人材養成や海外の老人ホームへのノウハウ供与等)
収益事業
- 海外の介護事業者のための研修事業
- 海外の介護事業者のためのコンサルティング事業
- 海外での老人ホーム運営
- 海外での介護人材養成のための学校運営
- 海外での保育所運営
3.海外事業等を実施する法人の要件
- 事業運営が適切に行われていると認められない事由がないこと。
- 海外事業を行うにあたっては、定款に具体的な事業内容と事業を展開する国を明記し、所轄庁の承認を得ること。
- 法人の事業の安定的運営を確保し、国内の福祉サービスを充実する等の観点から、海外事業の規模(すべての海外拠点に係るサービス活動費用の合計額)は、原則として前会計年度の法人全体の次期繰越活動増減差額の50%を超えてはならないこと。
ただし、当該会計年度における特別な事情により超えてしまったものであり、恒常的に50%を超えるものでないと所轄庁が認める場合には、この限りでない。
4.海外事業の資金
公益性の高い社会福祉法人の財産については、収益事業から生じた収益は社会福祉事業又は公益事業に充当しなければならず、また、社会福祉事業や公益事業の資金を収益事業に充当してはならないといった制約があり、法人外流出も禁止されていますので、資金の運用についても制限があります。
充当できる範囲
- 出張所等(法人格がない場合)
海外事業等が公益事業に位置付けられる場合、法人の社会福祉事業、公益事業又は収益事業から生じた収益を、上記3(3)の範囲内で充当することが可能です。
海外事業等が収益事業に位置付けられる場合、法人財産を充当することはできず、新たな資金調達(寄附等)が必要となります。 - 現地法人の設立により実施
国内の社会福祉法人から現地法人への出資は認められません。また、海外の法人と協働して事業を実施することにより、海外で法人格を取得せずに事業を実施する場合も、当該法人への単なる出資は認められません。