成年後見制度の利用の促進

著者:【谷野会計事務所】谷野 芳江

 認知症など精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある人たちを社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題です。

高齢者を狙ったオレオレ詐欺や、強盗殺人事件まで誘発したアポ電などにより、被害を受ける人が増えていて、財産を管理していくにも心配の種が尽きません。人生100年時代と言われ、定年後の生活は20年以上続きます。
 

高齢による認知症の発症や病気になった時の対応、老人ホームへの入居や自宅の売却手続きの問題など、老後に起こり得る様々な事柄について、元気なうちに予め対応策を講じておく必要があるのではないでしょうか?

 認知症高齢者が500万人を超えると言われる現在、これら判断能力が衰え支援を必要とする高齢者が急増する状況にどう対応していくかは、社会全体の問題でもあります。老後の安心を得るための代表的な制度として成年後見制度がありますが、まだまだ十分に利用されていないのが実状です。

 その一番の理由は、成年後見制度の仕組みや利用手続きが分かりにくいので、敬遠されがちなる点にあると言われています。

 でも、裁判所による監督機能が期待できる手続きですので、最終的にはこれに頼らざるを得ません。

 皆さんの周辺で、この制度の利用を必要とするこんな状況は見られませんか?

  • 認知症で、今のところ要介護1の判定を受けている一人暮らしの女性。親戚の人が訪問すると高額なリフォーム工事の契約書が置いてあった。
  • 他人に貸している不動産があり、自分で管理をしてきたが、物忘れがひどくなって、これからも管理が続けられるか不安を感じるようになった。
  • 親が認知症になり、老後の資金のため親の定期預金を解約しようとしたが、本人の意思確認が出来ず、銀行から拒否された。
  • 親が認知症になり、一人息子も精神疾患を患っている。

 このような状況が見られれば、やはり成年後見制度の利用を考えなければなりません。

 2016年に成年後見利用促進法が施行され、

  1. 利用者がメリットを実感できる制度・運用
  2. 被後見人の権利擁護支援のための地域連携ネットワークづくり
  3. 後見人による不正防止の徹底と利用しやすさとの調和

などの点で、改善が図られることになりました。
今後この制度がさらに利用しやすくなり、社会にとってごく普通に利用できる制度へと発展し普及していくことが望まれます。

1.利用者がメリットを実感できる制度・運用

2.権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり

※チーム:本人に身近な親族、福祉・医療・地域等の関係者と後見人がチームとなって日常的に本人を見守り、本人の意思や状況を継続的に把握し必要な対応を行う体制

≪地域連携ネットワークの役割≫
●権利擁護支援の必要な人の発見・支援
●早期の段階からの相談・対応体制の整備
●意思決定支援・身上保護を重視した成年後見制度の運用に資する支援体制の構築

≪地域連携ネットワークの機能≫
●広報機能、相談機能、利用促進機能、後見人支援機能、不正防止効果

3.不正防止の徹底と利用しやすさとの調和

 被後見人が保有する預貯金等の管理の在り方については、金融機関における取組を期待し、最高裁判所・法務省等とも連携しつつ、さらに検討を進める予定になっていますが、大まかなイメージについても案が示されています。

1.口座の分別管理
①小口預金口座(日常的に使用する生活費等の管理)
②大口預金口座(通常使用しない多額の預貯金等の管理)

2.払戻し
①小口預金口座・後見人の判断で払戻しが可能
②大口預金口座・後見人に加え、後見監督人や裁判所の同意(関与)が必要

3.自動送金等生活費等の継続的な確保のための定期的な自動送金
②大口預金口座 → ①小口預金口座

 成年後見制度は、本人が認知症などによって財産管理能力がなくなったと判断される場合に適用されますので、その時点で本人の方からこれを積極的に利用することは困難です。周りの人たちが本人をケアする中で、制度の利用を考えることになります。

 これとは別に、本人が元気なうちに信頼できる人に予め後見を依頼しておく任意後見制度もあります。それなりに財産があるのに頼れる身寄りがいないという人は、この制度を利用するのがいいかもしれません。

 それぞれの状況に応じて、老後の対策を考えておきたいものです。

※こちらの情報は2019年4月時点のものです。