社会福祉法人の協働化・大規模化に向けた動き

著者:【谷野会計事務所】谷野 芳江

※こちらの情報は2019年7月時点のものです

改正社会福祉法が2017年4月に本格施行されてから2年が過ぎ、事業運営の透明性向上や財務規律の強化などが急速に進められています。社会福祉法人は公益性が高いことから、今後、さらに効率的な経営に向け、事業の再編が推し進められようとしており、その流れが加速しつつあります。

厚生労働省は、社会福祉法人の協働化・大規模化に向けた「社会福祉法人の事業展開等に関する検討会」の第1回を2019年4月に開催しました。福祉サービス等の事業を行う複数の法人が、人材育成・採用などの本部機能を統合し法人化することで、ケアの品質の底上げや研修・採用活動のコスト減などの効果が期待できるとしています。検討会では、合併・譲渡などの適切な手続きを解説するガイドラインを策定し、小規模な法人が相互にネットワークを形成して地域のニーズに応えていく取り組みを後押ししていくなどの基本方針が了承されました。

全国約2万件の社会福祉法人の9割が、職員数100人以下の中小法人です。近年のサービス報酬改定、利用者の減少により経営難に陥っている法人もあり、協働化・大規模化による経営改革を行うことによって、新たな道筋のできることが期待されます。

他方で、小規模であっても経営が安定し、地域に定着してきめ細かな福祉サービスが提供してもらえると、利用者から喜ばれている法人も数多く存在します。福祉サービスが必要な利用者にとっては、日常の大切な居場所となっています。歴史や理念を異にする社会福祉法人が、経営効率化のため強引に統合され、福祉サービスの良好な品質が失われることにならないように、理念の共有といったことも合併・譲渡のガイドラインに盛り込んでもらいたいものです。

 社会福祉法人の合併は、すでに平成20年から平成29年までに約120件行われ、認可されていますが、業績不振法人の救済や人的資源の効率化、合理化を理由とするものが多くを占めているのが実情です。今後は、行政の主導による合併も増えていくのではないかとの懸念もあります。

社会福祉法人の法令上の合併の手続き

厚生労働省社会福祉法人の事業展開等に関する検討会(第1回)より

法人の協働化・大規模化以外にも、医療・介護・福祉サービスの経営効率化のためのAIの活用が推し進められようとしています。

「経済財政運営と改革の基本方針2018」の重要課題として、医療・介護サービスの生産性向上のため、人口減少の中にあって少ない人手で効率的に医療・介護・福祉サービスが提供できるよう、AIの実用化に向けた取り組みの推進、ケア内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築、ロボット・IoT・センサーの活用を図ることなどがあげられています。

これらによって、福祉事業従事者の業務分担の見直し・効率的な配置、介護助手・保育補助者など多様な人材の活用、事業所マネジメントの改革等を推進するとともに、介護の経営の大規模化・協働化によって人材や資源の有効活用を図るとされています。

 社会福祉法人の経営者にとっては、旧来の経営手法のままでは乗り越えられない時代の波が押し寄せていると言えます。いろいろな情報を収集し、将来に向けた投資の必要性等を考えていかなければなりません。まずは中長期計画を作成し、そのことを通じて経営の効率化を図っていくことが、最初の重要課題であろうと思います。