ひきこもりの長期化
※こちらの情報は2019年9月時点のものです
ひきこもりの顕在化
いわゆる「ひきこもり」の問題については、かねてより識者が警鐘を鳴らしていました。そして、ひきこもりの長期化、高年齢化が憂慮されるなか、政府は、従来は若年層特有の問題として調査対象を39歳までに絞っていたのですが、今年はじめて中高年層にも範囲を広げて実態調査を行いました。
3月29日に発表された実態調査の結果によると、40〜64歳までのひきこもりの人たちの推計人数が約61.3万人と、40歳未満の約54万人を上回る結果となりました。
不登校と同様、若年層のイメージが強い「ひきこもり」ですが、むしろ中高年の問題だという事実が初めて浮き彫りになったわけです。
8050(はちまるごーまる)問題
ひきこもりが長期化すると親も高齢となり、収入が途絶えたり、病気や介護がのしかかったりして、一家が孤立、困窮するケースが顕在化してきます。
今までひきこもりの人を抱えた家族がいるということは、地域でもなかなか把握できない状況でした。親の認知症の調査に行ったケアマネージャーが、自宅を訪問して初めてひきこもりの家族の存在が判明したというケースも多く聞かれます。
中高年の親子が同居している世帯で、ひきこもりや親の介護などが長期化して経済的に困窮したり、社会から孤立したりする問題は、「80代の親と50代の子」を意味する「8050(はちまるごーまる)問題」と呼ばれています。以前から対策を求める声も出ていましたが、現状は支援する制度がないため手つかずになっています。悪質な自立支援ビジネスによって被害を受けたという事例も報告されています。
ひきこもりの中高年者の4分の1を占めるのが、40〜44歳の「ポスト団塊ジュニア」だと言われています。
彼らは2000年前後の「就職氷河期」に大学や専門学校を卒業し、就活しても採用の予定すらない企業も多いなか、非正規雇用を余儀なくされ、雇用の不安定な状況が続き、結果的にひきこもり状態となった人もいます。こうした人が支援を受けられないままに年を重ねれば、親が高齢化し経済的にも困窮して共倒れになってしまうことになります。
このような氷河期世代をこのまま放置すると、将来的に必要となる生活保護費が10兆円にのぼるという試算も出ているほどで、これは国家財政にとっても深刻な問題です。就職氷河期は彼らに責任があって生み出されたわけではなく、社会全体を覆った不況によって生じたわけですから、一人でも多く社会復帰が出来るよう社会全体で支援策を考えていかなければなりません。
61.3万人の内訳
調査の結果では、満40歳から満64歳までの人口は4,235万人なのに対し、広義のひきこもり群の出現率は1.45%で、推計数が61.3万人となりました。
広義のひきこもり群とは、ふだんは家にいるが、自分の趣味などに関する用事の時だけ外出する『準ひきこもり群』(24.8万人)と、「ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」に該当する『狭義のひきこもり群』(36.5万人)を合わせたものです。
ひきこもりと言うと、自室からほとんど出ないイメージを持つ人もいますが、このようなひきこもりは、広義のひきこもり群の4.3%に過ぎませんでした。ひきこもりとは、人間関係を失い、社会的に孤立した状態にある人を意味するため、外出することが出来てもひきこもりに該当する場合があります。
40歳以上のひきこもりの男女比は、男性76.6%、女性23.4%でした。
今回の政府の調査では、例えば、現在の状況を「専業主婦・主夫、家事手伝い」と回答し、「最近6ヵ月間に家族以外の人とよく会話した・ときどき会話した」と回答しなかった人は、ひきこもりとして分類されています。
このような調査方法でしたが、男性の方の割合が高いという結果でした。また、初めてひきこもり状態になった年齢は、特定の年齢層に偏ることなく分布しており、ひきこもり状態になってから7年以上という人が約5割もあり、一度ひきこもるとなかなか抜け出せないということが分かります。
しかし、実態としては、引きこもりの状況にある人が社会復帰を望んでも、年齢や職歴のために社会から受け入れられず、諦めてしまう人も多いのではないかと思われます。
言うまでもなく40歳から64歳の人たちは、生産活動の中核をなす年代(日本では15歳以上65歳未満)で、社会にとって大切な存在です。日本の生産年齢人口は1990年代をピークに減少傾向が続いており、人手不足が深刻なことは誰しもが感じています。
確かに、ひきこもりの人が社会復帰するためには、対人関係を円滑にできるようにするための特別なプログラムが必要な場合も多いと言われています。しかし、今回の調査を受けて、私たちもひきこもり問題が決して他人事ではないと受けとめ、この問題を福祉施策の中に正しく位置づけ、例えば障害者雇用政策に類似したハンディキャップナーに対する支援のための制度を構築するよう政府に求めていかなければならないのではないでしょうか。