労働災害と会社(事業者)の責任・対策について

著者:【社会保険労務士】畑田 英一

※こちらの情報は2019年7月時点のものです

 労働災害は、業種問わずあらゆる場面で発生するため安全管理を徹底していたつもりでもすべてを未然に防ぐことは困難です。しかし、事業者に課せられている法律上の責任・義務から派生するリスクを極力回避するためには、会社の規模や業種にあわせて労働安全衛生法やその関連法、関連各省庁が定める各種のガイドライン(「指針」)に沿った体制整備を行い取り組むべき内容も規定化し、日常的に実行することが必要です。

今回は、労働災害が発生した場合、会社(事業者)が問われることがある法律上の責任と取り組むべき対策などついてのポイントをご説明いたします。

労働災害発生に伴う法的責任について

1.刑事責任

 労働安全衛生法は、事業者に対し労働災害防止措置を義務づけています。労働災害の発生の有無を問わず、これを怠ると刑事責任が課せられます。

2.民事上の損害賠償責任

 労災保険給付では精神的苦痛に対する慰謝料など損害のすべてをカバーしてはいません。労災保険給付の価額を超える損害に関しては、民事上の損害賠償の責任が問われることがあります。事業者に民事上の損害賠償の責任が問われる法的根拠には次のものがあります。

  1. 不法行為責任(民法第709条不法行為による損害賠償、第715条使用者責任)…故意・過失により労働災害を生じさせたときの加害者及びその雇用主である使用者の責任
  2. 安全配慮義務の債務不履行(労働契約法第5条安全配慮義務、民法第415条債務不履行による損害賠償)…労働契約の付随義務として安全配慮義務を尽くして労働者を災害から守らなければならない責任
  3. 工作物責任(民法第717条土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)…機械設備や製造物の欠陥により労働災害が発生したときのその占有者または所有者の責任
  4. 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条)…自動車や車両系の運搬・建設機械の運行上労働災害を発生させたときの、その車両などの所有者等に生じる責任

安全衛生管理体制について

 労働安全衛生法は、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」を目的として制定されており、この目的を達成するため、労働契約上事業者が守るべき最低基準が定められています。

この法に定められた安全衛生管理体制(4ページの資料参照)を整備し、各業種、危険な機械・設備、有害材料の製造・流通過程の関係者に課せられている義務を先ずは果たす必要があります。

安全配慮義務とその対策について

安全配慮義務

 労働安全衛生法は、事業者が守るべき最低限のことがらであり、自らが負う上記2.の安全配慮義務の重要な部分ですが、そのすべてではありません。

安全配慮義務は、過去の判例がもとになり平成20年3月施行の労働契約法第5条に規定されました。この法律では、“雇用者が労働者を雇い入れる際に、その労働者の生命と健康を保持するために予見可能性と結果回避のある災害防止措置を尽くしながら就労させる“旨が暗黙の中で契約内容となっていて、この安全配慮義務に違反して災害を被らせた場合には債務不履行が生ずるという法理です。

しかしながら、どのような措置・対策をとれば安全配慮義務を果たしたことになるかは規定されておりませんので、安全配慮義務の具体的な内容は過去の裁判例から見ていくことになります。現状では、過去の裁判例から次のように分類されています。

安全配慮義務の対策内容
設備・作業環境
  1. 施設、機械設備の安全化あるいは作業環境の改善対策を講ずる義務
  2. 安全な機械設備、原材料を選択する義務
  3. 機械等に安全装置を設置する義務
  4. 労働者に保護具を使用させる義務
人的措置
  1. 安全監視人等を配置する義務
  2. 安全衛生教育訓練を徹底する義務
  3. 労働災害被災者、健康を害している者等に対して治療を受けさせ、適切な健康管理、労務軽減を行い、必要に応じ、配置換えをする義務
  4. 危険有害業務は有資格者、特別教育修了者等の適任の者を担当させる義務

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まとめ

会社(事業者)として安全配慮義務を尽くすたには、労働安全衛生法、労働基準法、働き方改革関連法等の遵守は必須となりますが、それ以上に労働災害発生の「危険を予見し」、「その危険を回避する措置を講じる」ことが裁判所において要求されています。

具体的な対策の一例としまして、上記の安全配慮義務の分類も踏まえて、職場の危険性または有害性を特定し、リスク低減の優先度を決めて措置を実施するために「リスクアセスメント」(厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」)は有効な手法となります。また、健康管理面では、ストレスチェックが義務化されていない50人未満の会社におかれましても要望に応える準備を整えたり、ハラスメント関係では厚生労働省の「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(パワハラ対策は2020年4月義務化、中小企業は努力義務でスタートしその後2年以内に義務化予定)を参考にして会社の対応について就業規則へ明記する等義務化されていない範囲まで広げて対策を検討することも重要な課題です。

(セクシャルハラスメント、マタニティ—ハラスメント対策については義務化されています。)

【資料】事業規模別・業種別安全衛生管理体制

※「令」=労働安全衛生法施行令

【業 種】
建設業、運送業、清掃業、林業、鉱業(令2条1号の業種)

【業 種】
製造業(物の加工業含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
(令2条2号の業種)

【業 種】
その他の業種(令2条3号の業種)

安全衛生推進者、衛生推進者については、労働基準監督署への選任報告の義務はありません。