会社を守る就業規則〜10人未満事業所の就業規則作成のすすめ〜

著者:【年金・退職金総合アドバイザー、DCアドバイザー、社会保険労務士】畑田 英一

※こちらの情報は2019年8月時点のものです

 パートタイマーやアルバイトも含めて従業員が常時10人未満の事業所は、就業規則を作成する義務はなく労働基準監督署にも届け出る必要もありませんが、厚生労働省の指針では「労働者が10人未満であっても就業規則を作成することが望まれる」とされています。
就業規則の必要性を感じていても作成することによってかえって縛られるのはないかとの声もあります。果たしてそうでしょうか。
実は作成することには会社にとって多くのメリットがあり会社を守る盾となります。

1.就業規則の法的性質

就業規則の有無にかかわらず、労働基準法をはじめ各労働関係法が適用され、民事上の権利義務の関係でも問題が生じます。就業規則を作成することで、会社と労働者の約束事であるとして公的な形で会社の規範を示すことができ、従業員はこれに拘束されることになります。従業員が10人未満の事業所が所定の手続により就業規則を作成した場合は、労働基準法では「就業規則に準ずるもの」となり、法的にも有効なものとして扱われます。

2.就業規則に懲戒事由と懲戒の定めがないと懲戒ができない

会社は様々な価値観を持った人が集まる場所です。様々な価値観を持った人が集まれば一定のルールが必要であり、そのルールに従えない人、不正、不当な行為を行うなど企業秩序の違反に対する制裁として、会社は「懲戒」を行うことができます。「懲戒」というと懲戒解雇をイメージしますが、「懲戒」の一手段であり、一般的に就業規則では、懲戒の種類として以下が規定されます。

懲戒処分を行うためには、労働契約法第15条で規定されている通り、懲戒事由には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当である」ことが必要で、その事由の規定内容は想定した限定列挙としなければなりません。
つまり、いざ懲戒解雇をしようとしても就業規則にそれを想定した限定列挙がなければ、どんなにひどい不祥事だったとしても裁判となった場合、会社が行った懲戒解雇を無効とされる可能性が非常に高いと言われています。懲戒事由は、個々の会社の業界、業種なども踏まえた具体的な内容での限定列挙が必要なため、就業規則のひな形そのままの内容で個々の会社の事情が考慮されていない場合は見直しが必要です。

懲戒事由の一例
  • 業務の権限を越えて専断的なことを行わないこと
  • 職務上の事に関し会社の許可を受けないで金銭物品を受け、または私借しないこと
  • 酒気を帯びて就業しないこと

昨今は、ハラスメント関係に対する会社の取り組み姿勢が問われております。
既に義務化となっているセクシャルハラスメント防止規定のみならずパワーハラスメント防止規定も就業規則に規定し、規定違反の場合は就業規則の懲戒対象とする旨を規定することが会社としての取り組み姿勢の意思表明となり、前号で述べました会社の安全配慮義務の履行にも結びつくことになります。
就業規則が無い場合は、会社を守るため、早期の作成検討が望まれます。

遅刻・早退・欠勤時の賃金控除の根拠となる

労働者による労務の提供がなければ、会社は賃金を支払う義務はありません。
これが「ノーワーク・ノーペイの原則」ということですが、就業規則がなければ賃金計算の元となる始業・終業時刻について曖昧な状態になりがちです。
一般的には、遅刻・早退・欠勤等の不就労があった場合、その時間分に対する賃金を控除しますが、誤って多く控除するケースも見受けられます。該当時間分を超えた控除は制裁としての控除となり就業規則の根拠がないとできないことになっています。

欠勤等の不就労時間分の計算方法については法律には具体的な定めがないため、特に日給月給制の場合の計算は難しく根拠がなければトラブルの元になります。

会社として正当な賃金控除の計算方法を就業規則に定めておくことで問題は解決します。

年次有給休暇の年5日以上取得義務化対応

時季を指定して取得させる場合

今年の4月1日から年次有給休暇の取得促進対策として、年次有給休暇が年10日以上付与される労働者に対して、年5日以上の取得が義務化されました。従業員が自らの申請で年5日以上取得できる状況であれば、使用者の義務は果たされことになりますが、会社の業務等の事情により会社が従業員の意見も尊重しながら取得時季を指定するような場合は、「時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について」、就業規則への記載が必要となります。この年5日取得義務については対象事業の規模は関係ありませんので、就業規則作成義務のない労働者10人未満の会社において、使用者からの時季指定をする場合は、就業規則そのものの作成が必要となりますので注意が必要です。

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まとめ

今回は、就業規則が会社を守る一つの盾となり得るという観点で就業規則のメリットのごく一部をご紹介させていただきました。10人未満の就業規則の作成義務がない事業所様だからこそ積極的に作成し従業員へ周知することは、会社から従業員へ向けて、コンプライアンスをしっかりと運用しているアピールにもなり、ひいては、生産性向上へとつながる波及効果も少なくないと思われます。

就業規則を作成する場合は、自社の状況を踏まえた適切な就業規則でなければ返って仇となりかねません。上記のポイント以外にも取り入れるべき規定内容は色々ありますので私ども専門家にお気軽にご相談ください。